増設再び
先日ピザ窯の増設をして試し焼きもした理津子。
そんな日からまたしても増設の工事が入っていた。
キッチンは使えないのでお昼は宅配に。
今回は何を増設しているのかというと。
「まーた増設しとんのか」
「お金は好きに使っていいって言ったんだけどな」
「今度は何を増設してるんだろ」
今度は何を増設しているのか、理津子にそれを聞いてみる。
そんな理津子は夏になったという事もあり麦茶を作っているようで。
「ねえ、りっちん、今度は何を増設しとるの」
「パン焼き窯だけど」
「お前、パンまで焼くようになるつもりなのか」
「オーブンでもいいんだけどね、でもオーブンだと本格にはならないから」
「これが趣味にお金をかける極地かな」
お金を好きに使えるという事もあってか、金銭感覚は確実におかしい。
とはいえ理津子の自宅も家庭用の本格的なものはあった。
そう考えるとこの手のこだわりは確実に親譲りである。
「りっちんって金銭感覚おかしくなったよね」
「うーん、でも流石に目に入ったものを片っ端から買ったりはしないよ?」
「確かに料理に使う食材とかは高級なものを買うってわけでもないよな」
「お父さんが言うには本物の一流はスーパーの食材で高級料理を作るらしいし」
「リツコは一流なの?」
理津子本人は一流という気は全くない様子。
そもそも理津子はプロの料理人ではないし、なるつもりもない。
あくまでも料理が好きな女性というだけである。
「確かにりっちんの料理は美味しいし、家庭的って感じはするよね」
「あたしはプロになるつもりはないからね、ただ料理が好きなだけ」
「その割にはピザ窯にパン焼き窯まで増設するんだな」
「普通のオーブンじゃどうしても限界があるんだよ、お金が使えるならって事だけ」
「確かに本格的なピザは美味しかったけど」
理津子も家庭の設備での限界は分かっている。
お店の設備と家庭の設備では同じ料理でも完成度が違う。
チャーハンは火力!みたいな話である。
「まああたしが潜入したとこも本格的な料理設備があるとこは何軒があったね」
「要するにチャーハンは火力!って事だよね」
「家の設備でチャーハンを作っても店の味にならないって事か」
「そう、それっぽくは出来るんだけどそれにはならないんだよね」
「だからパン焼き窯なんだ」
とはいえ家で食べるべったりしたチャーハンも好きだという理津子。
家庭には家庭の味があるという事なのだろう。
ただ設備の増設は料理好きの性なのだろう。
「そういやこの麦茶って美味いね、キンキンに冷えてるから夏にはいいや」
「こっちだと麦茶って作れるかなと思ったけど、作れるものだね」
「まあ粉末なりパックなりは売ってるからな」
「まさか異世界に来て麦茶を作ってるとは思わなかったよ」
「麦茶って東の国の飲み物なんだよね、それが持ち込まれて伝わったんだって」
つまりこの国にある麦茶は伝来品である。
とはいえ伝えた人がきちんと伝えたのか、理津子の世界の麦茶と大きな差はない。
なのでキンキンに冷えた麦茶が飲める嬉しさである。
「あたしが入り込んでたとこは麦茶なんて飲まない家だったからなぁ」
「麦茶は夏の強い味方だよ、麦茶と塩タブレットで熱中症防止になるしね」
「炎天下にいると倒れるやつか」
「そう、熱中症には塩分とミネラル、だから麦茶と塩タブレットなんだよ」
「それで塩タブレットも買ってきてたのか」
理津子の世界の夏は国の事もあり高温多湿だった。
こっちの夏は確かに暑いが、思ってるよりは快適である。
港町なので潮風があるからなのだろうか。
「こっちの夏は思ったより涼しいぜ、あとここは潮風があるからね」
「あたしの国の夏は暑いだけならともかく、湿度があるから辛いんだよね」
「つまり蒸すのか」
「そう、熱帯夜なんて言葉があるのはあたしの国ぐらいって言われてたし」
「ここは潮風もあるから快適な夏が過ごせそうだね」
そんな夏の話。
こちらの世界もまもなく夏になる。
湿度がマシなだけこちらは過ごしやすそうだと理津子は思う。
「工事は夜には終わるけど、キッチンは少しお預けね」
「はいよ、まあ期待してんぜぇ」
「本格的に走りすぎだろ」
「お金が使える嬉しさなんだよ」
そんなこんなで今度はパン焼き窯の増設。
理津子もお金が使えるからこそなのだろう。
食材は高いものを片っ端から買ったりはしない。
設備投資の大切さである。




