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お店のものもどき

理津子の買い物はたまに気まぐれになる。

贅沢っぽいものが安く売ってたりするとつい買ってしまいがちだ。

そんな今日はパン屋で食パンが一斤を安く売っていたと本人は言う。

せっかくの一斤パンなので何か作ろうと思い立ってそれも買ってきたようで。


「なんかアイスとか一斤のパンとか、りっちんは何を作るつもりなんかね」


「あいつ、余計なものを定期的に買ってくるからな」


「なんか甘い匂いはするけど」


そんな話をしていると理津子が完成品を持ってくる。


運ばれてきたのは一斤の食パンを使ったハニートーストだった。


「うへ、りっちん、またすげーもん作ったね」


「お父さん直伝のハニートーストだよ、どうかな」


「一斤の食パンをこんな風に使う奴ははじめて見たぞ」


「こっちだと少しお高い喫茶店とかで見るから、それっぽく作ってみたの」


「凄いねー、食パンがケーキみたいになってる」


理津子の父親は料理人ではあるが、簡単なデザート類も作れる。

パティシエのようなものは無理だが、ある程度の凝ったものもイケるクチだ。


それを当然理津子も見て育っているからこその代物である。


「アイスにはちみつ、チョコソースにクリーム、こりゃアノットさん大歓喜ですわ」


「お店のものに比べると味は劣ると思うけどね、まあもどきって事で」


「とりあえず食べるんだろ」


「うん、今切り分けるね」


「お店のものっぽいね、リツコってたまに本気出してくるね」


とりあえず各自に切り分ける。

オーブンで焼いた一斤の食パン3分の1にクリームやソースで盛り付けたもの。


まさに食パンの贅沢な使い方である。


「んー、こいつぁ美味い!りっちんに一生ついていきまっす!」


「大げさだよ、でも覚えたものって意外と役に立つものなんだねぇ」


「確かに美味しい、店のものに比べると劣るけど、それでも美味しいぞ」


「レシピはお父さん直伝だからね、仮にもプロの真似事だよ」


「真似事でこんな美味しいなら料理人は泣くと思うよ」


理津子の父親は自称元ホテルの料理人。

そこで培ったものはしっかりと受け継がれているという事か。


理津子自身料理が好きだったというのは大きいのだろうが。


「にしてもさ、りっちんのその胡散臭いパパンは大したもんだねぇ」


「本人は自称って言うけど、それならあんな美味しい料理はどうなのって思うし」


「ホテルの料理人って言ってても意外と庶民的なんだなって思うぞ」


「お父さんも高級料理は散々作ったし高級食材も散々使ったとは言ってたからね」


「でもこういうのが作れちゃうのはプロって事だと思うよ」


理津子の父親もいい食材も高級料理も散々触れてきたのだろう。

それでも理津子の作るものは家庭的な料理ばかり。


それはプロの世界で戦った料理人の原点回帰なのだろうか。


「りっちんってさ、普段はドカ盛り飯を作るのにたまに凄く繊細なもん出すよね」


「お父さんが言うには料理は相手に美味しいと思わせる事が正義なんだってさ」


「よくある料理漫画とかのこんなの不味いに決まってる、美味い!的なやつか?」


「それは分からないけど、料理ってまず見た目と香りなんだよ、味は二の次なの」


「確かに見た目と匂いが不味そうだと手は伸びないよね」


要するに料理を食べさせるには美味しそうな見た目と食欲を刺激する香り。

味は二の次と言うものの、プロは美味しいと言われる味を理解している。


だからこそ手を伸ばさせるために見た目と匂いに力を入れるのだ。


「でもそれはあたしも分かるかねぇ、砂糖の匂いがするとつい食べたくなっちまうし」


「お父さんが言うには見た目が悪い料理は美味しくても売れないんだってさ」


「料理っていうのも簡単そうに見えて複雑なんだな」


「だからこれは美味しいと確信させた料理は面白いように売れたって言ってた」


「それが見た目とか匂いって事なんだね」


理津子の料理のセンスは完全に大衆食堂のそれだ。

家がそうなのだから、それは仕方ない。


とはいえ父親から教わった事はきちんと理解しているようではある。


「はぁ~、満足なり」


「たまにこういう事するから油断ならないよな、お前」


「また作ってね」


「うん、それも考えとく」


父親の背中を見て育ったからこその料理のセンス。

本人は自称と言うので、真偽については分からない。


とはいえその味は子供の頃から食べてきた味なのだ。


家庭の味というのだけは揺るがないのだろう。

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