桜の木
こっちの世界もすっかり春模様に変わりつつある。
そんなこの世界でもお花見とか出来ないものかと考える理津子。
ロザリオはそれに関しては乗り気ではない様子。
するとそこに思わぬ来客がやって来る。
「失礼しマス」
「いらっしゃい、お茶でいいかな」
「ハイ、なんでもいいデスよ」
来客はエミールだった。
なんの用かと気になりつつもとりあえずお茶を出す。
「それで何か用かあって来たんだよね」
「ハイ、今度神社でお花見でもしマセンか」
「お花見か、神社って桜の木とかあるの?」
「ハイ、蕾も開きかけているので、開花したらと思いマシテ」
「帝はそれについては何か言ってた?」
確かに引きこもり体質の帝がお花見に乗り気かどうかは不透明だ。
とはいえエミールも帝の事は心配しているようで。
そこで理津子達を訪ねてきたという。
「帝様も基本的に外には出ない人デスから、こういう機会は大切だと思いマス」
「なるほどねぇ、それで私達って事か」
「どうデスか?」
「それはいいと思うよ、うちの人達も誘ってみればいいのかな」
「ハイ、出来るのならお願いしマス」
とりあえずその話は引き受ける事にした。
神社の桜が開花するのは予定では今月末頃らしい。
その時に神社に来てくれればいいとの事。
「料理とかはそっちで作ればいいかな?」
「ハイ、調理器具なんかはこちらで用意しマスから」
「分かった、じゃあその時はお邪魔させてもらうね」
「ハイ、感謝しマス」
「うん、腕を振るってあげる」
とりあえず伝えたい事は伝えた様子のエミール。
本当はメールなどでもよかったが、今回は直接来たという。
詳しい開催日は後日連絡するとの事。
「ではそろそろお暇しマスね」
「うん、帝にもよろしくね」
「ハイ、お伝えしておきマス、それでは」
「さて、出てきていいよ」
「知ってたなら言えばいいのに」
隠れて様子を見ていた様子のロザリオ。
お花見の事はあまり乗り気ではない様子。
そもそもそういう事の楽しさは分からないタイプの人でもある。
「お花見なんて何が楽しいんだよ」
「あー、それならたぶん平気、あたしも花より団子の人だから」
「つまり花を見るより美味い飯が食いたいだけか」
「そう、実際我が家のお花見ってお父さんが料理作ってそれを食べるのがメインだったし」
「お前の家からしてそういう家なんだな」
理津子も本人が言うように花より団子の人である。
飲み会でもお酒より料理を優先して呼ばれなくなっただけはある。
つまり美味しい料理がメインであって花は添え物という事らしい。
「つまり花見を口実に食べたいだけだろ」
「まあそうなんだけどね、あたしとしても花見と言いつつ食べてばかりだったし」
「セルベーラはともかく帝とかアノットは来るものなのか」
「そこはたぶん…かな」
「僕は付き合ってもいいけど、期待はするなよ」
ロザリオは以外にも付き合ってくれるという。
その反応に意外そうな顔をする理津子。
思えば家政婦として召喚されたのにすっかり主導権は理津子が握ってしまっている。
「なんにしても美味いものを作れ、いいな」
「任せて、そこはきっちりさせてもらうから」
「それにしてもお花見か、神社にある桜って東の国の花なんだよな」
「この世界ではそうみたいだね」
「そういうのが植えられてるって事は東の国から来た人や文化はあるって事だよ」
確かに神社があったり桜があったりはそういう事なのだろう。
ついでに神界の東洋の神様が関わっているとかもありそうだ。
文化が様々混在しているこの世界の面白さなのか。
「でも桜の原産地ってあたしの国だと山のある地方って言われてるよ」
「そうなのか?」
「うん、あたしの国の一番有名な桜はクローンなんだって」
「はぁ、それ普通に凄い話だと思うんだが」
「人工的に作られた桜の木だから、原産地とか起源とかそういうのはないんだよね」
桜は短い期間しか咲かずに雨ですぐに落ちてしまう。
そんな儚さが桜の花の魅力なのだろう。
とりあえず計画を立てつつ連絡を待つ事にした。
「少年もたまには乗ってくれるんだ」
「今回は断るのも悪いからな」
そんな事もありお花見が決まる。
詳しい日時は後日として、計画も考える。
とはいえ花より団子の人達なので、食べる方がメインになりそうだ。
花より団子、それは人の性なのかもしれない。




