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他種族同士の婚約~後編~

お爺さんから昔話を聞く理津子とロザリオ。

彼の言う異種族婚の意味。

それは決して回避する事の出来ない寿命という壁。

幸せというものの意味を改めて感じさせられる。


「私は幸せだった、それは決して揺るがない事実なんですよ」


「爺さんはそれだけ奥さんの事が好きだったんだな」


「なんか泣けるよね、それだけ幸せになれる夫婦って意外といないから」


お爺さんは今でもそれについての後悔は一切ないという。


それどころかこんな自分に幸せをくれた今は亡き奥さんに感謝しかないとも。


「こんな爺さんの話を聞いてくれて感謝しますよ」


「ううん、でもお爺ちゃん、なんであたしの事が分かったの」


「そうですね、空気と言いますか、元軍人なので人の纏っているものが分かるんですよ」


「なんか凄いんだな」


「職業病というやつです、この歳になっても今でも染み付いているものですよ」


彼はそんな軍人として生きて、第二の人生を好きな人と過ごした。

自分は幸せだ、そんな人生だったと笑ってみせた。


とはいえ年齢には勝てないというのもまた事実のようだ。


「そろそろ私も妻に会いに行ける、寿命の問題があるとはいえ意外と短いものですね」


「魔族は平均寿命が150歳って言ってたけど、お爺ちゃん何歳なの?」


「160と少しです、医者に余命一年と言われてから三年も生きてしまいました」


「凄いな、奇跡ってやつなのかな」


「医者も驚いていましたよ、末期なのにどうしてなんだと」


彼は医者に余命一年と宣告されてから三年も生きたという。

それはなぜなのか医者にも分からないという。


他種族が行き交う世界でも解明出来ない、それこそ奇跡というべきなのかもしれない。


「でも流石にもう限界なんでしょうね、今は病院に入院していて外に出るので精一杯だ」


「それでも末期患者とは思えないぐらい元気に見えるよ」


「世の中には目に見えないだけで、奇跡というのはあるのかもしれませんね」


「奇跡か、僕はそんなの信じたくないけど、ないとは思いたくもないかな」


「本当の奇跡というのは想いの力、きっとそんな気がします」


想いの力、それは願いは願わなければ叶わないという事なのだろう。

それに願うだけならタダなのだ。


意志の力は時に信じられない事を起こすのかもしれない。


「これだけは忘れないでくださいね、幸せというのはその人がそう思えば幸せなのです」


「そう思えば幸せか、でも分かるよ、幸せって同じじゃない、人によって違うの」


「そうですね、私にとっての幸せとあなた達にとっての幸せは違うという事です」


「僕にとっての幸せ…」


「だから自分は不幸だなどと思っていたら幸せは逃げてしまうんです」


理津子はふと思い出す、幸せは歩いてこないという理津子の世界の歌の事。

幸せとは自分の手で掴んでこそ意味があるという事。


だから歩いていく、それは幸せを自分の手で掴むためなのだという事を。


「私の体は死後は医学の役に立てて欲しいと言ってあります、それが最後の恩返しですよ」


「幸せは誰かに与えてもらうものじゃない、自分で掴んでこそ意味がある、だよね」


「おや、言うではありませんか」


「でも爺さんも幸せだったならきっと大往生だよ、凄いと思う」


「こんな年寄りでも何かしらの役には立てると思っているだけですから」


お爺さんはそれだけの人生を送ってきた。

理津子とロザリオにそれを話したのも、理津子の事に薄っすらと感づいたから。


幸せの意味も、他種族による結婚も、全ては時代と共に変わっていく価値観だという事だ。


「さて、そろそろ病院に戻らなくては、あなた達も自分だけの幸せを見つけてくださいね」


「うん、お爺ちゃんもね」


「次に会う事はきっとないと思います、こんな老いぼれに付き合ってくれて感謝しますよ」


「いいって、爺さんも人生に意味があったと思うならきっと幸せだったんだから」


「さて、それではお元気で、若い人達」


そうしてお爺さんは病院に戻っていった。

それから数日後、お爺さんが亡くなったと知った。


その死に顔はとても穏やかで晴れやかだったと聞いた。


他種族というものの意味を改めて考えさせられた一日だった。

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