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他種族同士の婚約~中編~

息抜きで外に出ていたら魔族の老人に呼び止められた理津子とロザリオ。

彼は理津子の事をなんとなくだが察した様子。

少し昔話を聞いて欲しいとの事で、時間もあるので付き合う事に。

それは老人とその妻の話のようで。


「お互いに理解は深めていたものの、親には猛反対されましてね」


「当時の話を聞く限りそうなんだろうな」


「お爺ちゃんはそれでどうしたの」


彼はそれでも食い下がる事はしなかったそうだ。


その代わり彼女が親に反対しても交際は続けると啖呵を切ったという。


「彼女の顔は本気だった、当時にそんな事をすれば家に変な噂がつくというのに」


「爺さんはそれを受け入れたのか」


「受け入れました、ただし彼女はそれを理由に勘当されましたが」


「そこまで本気だったんだ」


「それからは誰の支援もなく、周囲には奇っ怪な目で見られるようになりましてね」


周囲の視線や彼女の親の猛反対など、全てを押し切ってまで選んだ道。

決して楽ではなかったが幸せだった日々。


そんな日々が何よりも愛おしかったという。


「その時彼女は親に言ったんですよ、種族が違うだけで反対するのは立派な差別だと」


「種族が違うだけで反対するのは立派な差別、当時を知ってると相当な変人だよな」


「異種族婚は決して幸せになれない、そう言われていたその理由は分かりますか」


「もしかしてだけど、寿命…とかかな」


「そうです、魔族の平均寿命は150歳、一方の人間は長生きしても精々100年」


異種族婚に立ちはだかるのは寿命という決して避けられない壁。

彼女の親はそれを当然知っていたのだろう。


偏見があった当時ですらその話は周知の事実だった。


「今のこの世界では異種族婚も当たり前になった、その意味を知ってもです」


「時代や人の考えは変わったって事なのかな」


「それでも人間と異種族では寿命の短い方が先に死ぬ、これは決して覆りません」


「爺さんは今でも幸せか」


「幸せですよ、ただ心にぽっかりと大きな穴が空いた感じはしますが」


魔族と人間では当然寿命が異なってくる。

彼女の親が反対した理由としては至極当然の話だ。


だが彼は異種族婚でその幸せを否定する権利は誰にもないのだと言う。


「もし異種族婚で幸せになれないと言うなら、それはただの人間至上主義でしかないんです」


「なんか分かるかも、あたしの世界の創作で異種族が人間に憧れるのがやたら多いから」


「そんなものがあるのですね、ですが種族や人種というのは決して変える事は出来ません」


「そうだな、それに自分の種族や人種に誇りを持てないならそれはただの自己否定だ」


「若いのにずいぶんな事を言うのですね」


理津子の言う創作についても理津子自身思うところはあるのだろう。

この世界に来てその考えは強くなったとも言える。


人間に憧れる事は本当に正しいのか、とも。


「もしあなたが望む種族になれると言われたら、それを受け入れますか」


「人間のあたしが言っても説得力はないかもだけど、断るかなぁ、やっぱりそのままがいいし」


「有翼人になれば空が飛べる、人魚になれば海を好きに泳げる、そういったものを拒否すると」


「確かに憧れるけどさ、それで得られるものより失うものの方が大きいんじゃないかな」


「あなたは本当に年の割に達観した事を言うのですね」


ロザリオの言う得られるものより失うものの方が大きいという事。

それは憧れていたとしてもその種族だからこそ持てるものを手放すという事なのだろう。


理津子もそれと似たような考えではあるようで。


「私は幸せでした、彼女は失ったものがあまりにも多いのに、その笑顔は眩しかった」


「何かを失った事で手にしたものもきっとあるんだよ、お爺ちゃんはそれを知ってる」


「何かを失った事で手にしたもの、そうですね、その通りだと思います」


「彼女が失ったものと手にしたもの、爺さんが失ったものと手にしたもの、きっとあるよ」


「そうですね、だから私はこんなにも幸せだった、そう信じれば晴れやかに妻の下に逝ける」


彼とその妻の物語。

ロザリオの言う自分の種族や人種に自信を持てないならそれはただの自己否定という考え。


理津子も例えその選択があったとしても断るという考え。


老人が言いたい事はきっと世界は変われるという事なのかもしれない。

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