種のない果物
すっかり秋本番になり涼しい風が吹き始めた港町。
そんな中理津子はサインと一緒に以前来たフルーツパーラーに来ていた。
フルーツパーラーには旬の果物が多数並び、それを使ったデザートも食べられる。
果物屋が経営しているからこそなのである。
「ふぅ、やっぱり果物は美味しいね」
「リツコさんも果物はお好きなんですね、その様子からすると」
「まあ日本は果物が高い国だからこそ好きになったというか」
日本は果物が全体的に高い国でもある。
だからこそ理津子は果物を好きになったのか。
「それにしても果物はやっぱり種があるものしかないのか、この世界は」
「何を言っているんですか?果物は種があるものでは?」
「日本だと種のない果物は普通だったんだよね、そういう風に育てる方法があるから」
「それは少し興味深い話なんですが、そんな育て方があるなら知りたいですよ」
「でも種のない果物が恋しいな、皮ごと食べられるぶどうとかもあったっけ」
日本では種のない果物は一般的に流通していたもの。
流石に異世界には種のない果物はないという事ではある。
寧ろそういう風に育てる技術がないという方が正しいか。
「でも種なしのぶどうとか美味しいんだよね、皮ごと食べられる品種とかあってさ」
「ふむ、それは興味深い話ですね、そんな育て方があるとは」
「基本的には接ぎ木して育てるらしいよ、それで育ってきたら種なしにする処理をするとか」
「それだけでいいんですか?もっと遺伝子をいじるレベルの事をするんだと思いましたよ」
「まあ遺伝子組み換え作物もあるけどね、とりあえず接ぎ木するのが基本的なやり方みたい」
種のない果物は接ぎ木した上で育ってきたら種なしにする処理をする。
ちなみにみかんなどは突然変異で種なしになったものもある。
とはいえ種なしの果物にはきちんとした育て方があるものだ。
「まあ遺伝子組み換え作物もあるよ?とはいえ世間的には危険だって思われてるけど」
「遺伝子組み換え作物、何気に凄い事をしてますね」
「遺伝子組み換え作物って毒や虫への耐性だったりを獲得するために作ったって聞くよ」
「つまり毒や自然への耐性を獲得した上で育てるのが目的なんですか」
「でも健康への危険が言われたりして、厳正な審査を通ったものしか流通してないんだよね」
遺伝子組み換え作物はリスクが言われたりして、流通には厳しい審査が必要だ。
日本では遺伝子組み換え作物は流通こそしているものの、見る事は珍しい。
とはいえ遺伝子組み換え作物や種のない果物などは技術の産物である。
「それでもそういう風に育てられる果物はあるって事なんだよね」
「種なしに育てられる技術、接ぎ木した上で育ってきたら種をなくす処理ですか」
「うん、まあ突然変異で種なしになった果物あるって聞いたよ、みかんとかそういうの」
「突然変異、そういう理由で種なしになった果物もあるんですね」
「うん、まあ種なしの果物ってぶどうなんかは皮ごと食べられるものもあったよ」
種なしのぶどうなんかは皮ごとイケる果物でもある。
とはいえ皮を剥いて食べるのは果物では基本的な話。
しかし種なしの果物は流石に異世界では見られないのは当然か。
「種なしの果物も遺伝子組み換え作物もそうだけど、一応は技術の産物なんだよね」
「種がなくても増えるというのは興味深い話ですね」
「接ぎ木だから、育った木の枝を別の木にくっつけるわけだしね」
「しかしリツコさんの世界の技術というのは実に面白いですね」
「あたしは科学とかには詳しくないけどね」
理津子は一時期農業学校に通っていたので、農作物の事などにはそれなりに知識はある。
とはいえ科学にはそんな詳しい訳ではない。
サインも種のない果物などには興味を示しているが。
「シャインマスカットとかマスカット・オブ・アレキサンドリアとか美味しいんだよねぇ」
「また大層な名前ですね、シャインマスカットとかマスカット・オブ・アレキサンドリアとか」
「実際そういうものがあった国で生まれたからそういう名前なんだしね」
「生まれた国の言葉からそうなっているんですか」
「まあシャインマスカットは日本生まれだけど、名前の決め方ってそんなルールとかないしね」
作物の名前の決め方には特に厳しいルールはない。
しいて言うのなら既存のものと被らない事や、誤認させるような名前や誇張した名前は駄目らしい。
それさえクリアしていれば外国語の名前でもつけられるという事らしい。
「名前のルールって誤認させない、誇張しない、既存のものと被らないがルールらしいよ」
「日本という国は名付けに関しても自由なんですね」
「天体観測で新しい星を見つけると発見者に命名権があるとかあるしね」
「つまり個人で新しいものに名前を付ける権利がある国なんですね」
「たこやきとかしじみっていう名前の星があったりするしね」
農作物に限らず命名権があるのは作った人や見つけた人である。
なんにせよ種なしの果物や遺伝子組み換え作物などは技術の産物である。
サインもその技術には興味を示しているようではある。
「美味しかったね、また来ようよ」
「そうですね、その時にはまたお誘いしますよ」
「うん、それじゃまたね」
そんな種のない果物の話はサインも興味があった様子。
異世界では流石に種のない果物は見られないようだが。
とはいえ種なしのぶどうなんかは皮ごとパクパクイケるもの。
理津子も種のない果物が恋しい様子。




