コーヒーの味
すっかり秋の涼しさが到来し気温も快適な気温になってきた。
そんな中理津子は以前入った個人の喫茶店にたまに行くようになっていた。
オーナーのお爺さんは相変わらずマイペースな様子。
理津子もコーヒーの味はそこまで分からないが、美味しいとだけは分かる様子。
「ふぅ、癒やされるなぁ、コーヒーは一人でゆっくり飲むに限るよ」
「お嬢さんはコーヒーの味が分かる人なのでしょうか」
「うーん、高級豆なら流石に分かるけど、そこまで細かくは分からないかな」
理津子も高級なものとそうでないものの違いぐらいは流石に分かる。
とはいえそこまで細かな違いは分からないようだ。
「でもここは豆にこだわってるのは分かるかな」
「そこは分かるのですね、ええ、主に竜界産のコーヒー豆を使っているので」
「竜界産なんだね、竜界産のコーヒーって美味しいんだな」
「しかしお嬢さんもコーヒーと甘いものの組み合わせがお好きなようで」
「コーヒーは甘いものと合わせるのが一番美味しいからね、ドーナツとコーヒーみたいな」
ドーナツとコーヒー、要するにアメリカの警察官みたいなイメージなのか。
とはいえ確かに甘いドーナツと苦いコーヒーの組み合わせは美味しいものだ。
ちなみにこの喫茶店にはアイスコーヒーは置いていないようで。
「あたしはアイスコーヒーをよく飲んでたから、温かいのは家で淹れた時ぐらいだなぁ」
「アイスコーヒー?冷たくして飲む飲み方があるのですか?」
「うん、やり方はいくつかあるけど、一番定番なのは水出しコーヒーかな」
「冷たいコーヒー、そういう飲み方があるとは」
「缶コーヒーとかもあるし、ホットとコールドとどっちもあるからね」
日本はアイスコーヒーの方が目につきやすいというのはある。
しかし自販機やコンビニでも冬はホットコーヒーがメインで売られるようになる。
理津子は家で飲むコーヒーといえばスティックタイプのそれを飲む事が多かった。
「流石にこの世界だとアイスコーヒーは珍しいっぽいけど」
「しかしそういう飲み方もあるのですね、メニューに追加してみましょうか」
「意外と行動派だね、そういうの嫌いじゃないよ」
「しかしどうやって作ればいいのか、淹れたコーヒーをそのまま冷やすとかですかね」
「基本的にはそれでも問題はないんだよね、アイスコーヒーの淹れ方もあるにはあるけど」
コーヒーは基本的にインスタントを飲んでいた身としては淹れ方に詳しいわけでもない。
とはいえオーナーがアイスコーヒーもやってみたいというのならそれは応援したい。
まあ物は試しという事で応援はしてみる事にする。
「でもそこそこいい歳に見えるのに、挑戦には積極的なんだね」
「この店は赤字でも潰れる事もないですからね、お金はガンガン使えるのですよ」
「老後の完全な趣味って事か、お金があるって事はそれなりにいい仕事してたのかな」
「まあそんなところですね、なのでアイスコーヒーも物は挑戦ですよ」
「なら応援しちゃおうかな、もし上手く行ったら飲みに来るね」
理津子もやってみようというのなら応援しようという事になる。
暑い夏の日に飲むアイスコーヒーの美味しさはガチである。
やはり暑い日にアイスコーヒーはそれだけ美味しく感じるのだろう。
「でもいい豆を惜しみなく使えて、出せるデザートなんかも割といいものだよね」
「ええ、流石にデザートは自作出来ないので知り合いに融通を利かせていますが」
「お菓子屋の知り合いもいるのか、人脈の大切さが分かるね」
「ええ、昔の伝というものですね、おかげでそれなりにいいものを出せるんですよ」
「なるほどなぁ、人の繋がりは侮れないよ」
オーナーの昔の知り合いからお菓子は融通を利かせてもらっているらしい。
なのでその人の経営する店のプリンやドーナツなどを出せるのだと。
年齢的にデザートの自作は厳しいという事のようである。
「でも完全に老後の趣味なんだね、引退したからこそなのかな」
「昔の仕事はですね、今はレトロな喫茶店のオーナーですから」
「ここのコーヒーが美味しいのは分かるけど、細かい美味しさみたいなのは分からないかな」
「美味しいと言っていただけるだけでも嬉しいですよ」
「お爺ちゃんも美味しいって言ってもらえるのは嬉しいのか」
やはり美味しいと言ってもらえる事は嬉しいという。
なので美味しいという言葉はそれだけ優しくなれるという事らしい。
分かりやすいクレーマーはお帰りいただいているとも言っているが。
「でもお金があるからこそこだわれるっていう事なんだね」
「ええ、お金があるからこそいい豆をたくさん仕入れられるんです」
「引退したからこそこだわりのあるものを仕入れてお店に出せるのか」
「お金には困りませんからね、だからこそなんですよ」
「やっぱりお金は強いんだなぁ」
オーナーもお金には困っていないという。
それは今でも何かしらの収入があるという事なのか。
日本で言う謎の金物屋的なものなのかもしれない。
「美味しかったよ、また飲みに来るね」
「はい、いつでもお待ちしていますよ、あなたのようなお客は嬉しいですから」
「うん、それじゃまたそのうち飲みに来るね」
そんな喫茶店のオーナーも理津子をいいお客だと思っている様子。
やはり美味しいと言ってくれるのは嬉しいようだ。
そんな理津子もこの店のコーヒーは気に入っている。
美味しいコーヒーは心を癒やしてくれる。




