お好み焼きを焼く
すっかり春本番の暖かさになり寒さは完全に過ぎ去った。
日本は春なのに初夏になったり真冬になったりだが、異世界はそうでもない。
気侯が安定しているというのはそれだけ大きいという事なのか。
海風も吹くからこそ涼しさがあるのかもしれない。
「なんかいい匂いがするわね」
「ソースの匂いか?でも何を作ってるんだ?」
「肉とかシーフードとか買ってきてたよね」
そんな理津子が焼いているのは日本では割と定番のあれ。
ソースの匂いが食欲を刺激する。
「お、なんか美味しそうなもんが出てきたわね」
「お好み焼きを焼いてみたんだけど、美味しく出来てるはずだよ」
「お好み焼き?このピザみたいなやつがそうなのか」
「うん、とりあえず食べてみようか」
「だね、それじゃ食べようか」
お好み焼き、理津子はお好み焼きは関西風が好きなのだという。
広島風も嫌いではないが、関西風の食べやすさには勝てないとか。
食べ物は食べやすさもまた大切だという事なのか。
「うん、美味しいわね、このシーフードのやつは好きだわ」
「シーフードと豚玉が定番だしね、どっちも作ったんだけど」
「僕は豚肉のやつの方が好きだな、あとソースがよく生地に染みてるのもいい」
「あたしはシーフード派なんだよね、お好み焼きは好みの問題だし」
「でもお好み焼きっていうぐらいだから、好きに焼いていいんだよね?」
お好み焼きという名前からして、本来は好きな具材を入れて焼くものなのだろう。
今では豚玉とシーフードが定番になっているものの、名前の由来はそのままお好みなのだ。
だからこそ好きに焼いていいという事なのかもしれない。
「お好み焼きっていいわね、気に入ったわ」
「これは関西風なんだけど、広島風っていうのもあるんだよね」
「それは日本の地名でいいのか?」
「うん、広島風は麺を入れて焼くんだよね」
「麺を入れて焼くってなると、なんとなく食べにくそうだね」
理津子も関西風が好きなのはその食べやすさなのだという。
尤も広島風も決して嫌いではないらしい。
あくまでも食べやすさが大切という事なのだろうか。
「んで広島風と関西風ってどう違うん?」
「広島風は重ね焼き、関西風は混ぜ焼きなんだよね」
「つまり広島風は具材を生地で挟んで蒸したりする感じなのか?」
「そんな感じだね、関西風は生地に具材を混ぜてそれを焼くものだから」
「つまり主役が違うっていう事でいいのかな」
広島風は重ね焼きであり、生地は脇役である。
その一方で関西風は混ぜ焼きなので生地が主役である。
そうした違いがお好み焼きの対立にもなっている気がしなくもない。
「んでこのお好み焼きは関西風よね?」
「そうだよ、混ぜ焼きで作ってるからね、みんなで食べる時はこっちの方がいいしね」
「確かに、重ね焼きだとまとめて食べるには向かないんだろうな」
「一人で食べるなら広島風でも全然いいんだけどね」
「でもお好み焼きってなんとなくピザっぽいよね」
お好み焼きはジャパニーズピザなんて言われていたりもする料理だ。
なのでピザのようだと言われるのもそれはそれでありである。
実際食べる時の切り方もなんとなくピザっぽい。
「それにしてもお好み焼きにソースってよく合うわねぇ」
「お好み焼き用のソースも広島風は甘めで、関西風は辛めのソースを使うんだよね」
「ソースにまで違いがあるのか、地域差ってやつなのか?」
「お好み焼きにはオタフクソースが定番かな、お好み焼きソースっていうぐらいだし」
「お好み焼きに会うソースをわざわざ作るのもまた凄いね」
お好み焼きにはオタフクソースが定番、お好み焼きソースというジャンルなぐらいである。
とはいえソース自体にとんかつソースやたこ焼きソースなんかもあったりする。
なので料理に合うソースが個別に存在しているのだ。
「同じソースなのに料理によって別のものがあるなんて、贅沢な国よねぇ」
「食に対してのこだわりが強いとも言える気はするけどね」
「とはいえお好み焼きソースなんてこっちの世界にはないだろ」
「ないね、だから仕方なくウスターソースを塗ったんだけど」
「これはこれで不味いとも感じないけどね」
異世界なので当然言うまでもなくお好み焼きソースなんてものはない。
なので店で買ったウスターソースを塗ったのだという。
あくまでも代わりなので、そればかりは仕方がない、異世界だもの。
「うん、美味かったぜ」
「それはよかった」
「こういうのはまた食べたくなる味だな」
「割と食べやすかったしね、美味しかったよ」
お好み焼きは割と好評ではあった。
アノットはシーフードを気に入り、ロザリオは豚玉を気に入ったらしい。
お好み焼きの好みも人によって変わってくるという事なのか。
なお理津子は関西風のお好み焼きを好むという。




