日本人のソウルフード
すっかり春本番になり気温も上がり始めた港町。
ここは港町であり貿易港でもある。
だからこそ東の国の食べ物なんかも入ってきて、店で売られている。
それは理津子には極めてありがたいようで。
「まさか帝に誘われるとは思わなかったよ」
「はい、美味しいお米のお店が出来たので一緒に食べに行こうと思って」
「お米のお店かぁ、貿易港だからこそだよね」
帝が誘ってきた理由は美味しいお米の店が出来たからという事らしい。
その店に併設されているおにぎり屋に行こうという事らしいのだが。
「それでなんでお米のお店なの?」
「そこにおにぎり屋が併設されてるんです、リツコはお米が好きって聞いたので」
「へぇ、おにぎり屋か、確かにお米は好きだよ」
「よかった、美味しいと聞いているので、ぜひ一緒に行きましょう」
「うん、楽しみになってきたな」
そのまま店に行きそのおにぎり屋にはいる。
隣は米屋であり、東の国から入ってきた輸入米を売っている。
この大陸でも米を育てている国はあるが、東の国の米とは品種が違うらしい。
「さて、何を頼もうかな、いろいろあるけど」
「まずは、そうですね私はおかかをお願いします」
「ならあたしは梅をもらおうかな、やっぱり梅だよ」
「では決まりですね、楽しみです」
「うん、おにぎり屋なんてあまり入る機会もないし」
そうしていると理津子の梅と帝のおかかのおにぎりが握られ出てくる。
その握り方はプロのそれを感じさせる。
早速いただいてみる事にした。
「うん、これは美味しいね、梅干しもしっかり酸っぱくていいや」
「美味しいです、お米はふわふわで、海苔もパリッとしてて」
「でもこの国でもお米が食べられるのは嬉しい限りだよね」
「リツコ、本当にお米が好きなんですね」
「日本人のソウルフードだからね、お米なくして日本人は語れないよ」
米は日本人のソウルフードである。
理津子もそんな米を何よりも好むのは言うまでもない。
やはり米で育ってきたからこそなのかもしれない。
「ここのおにぎり本当に美味しいなぁ、いいお米なのが分かるね」
「リツコはお米が本当に好きって伝わってきますね」
「今の日本はお米が倍ぐらいに値上がりしてるって聞いて、驚いてるよ」
「そんなに値上がりしてるんですか」
「現代の米騒動だよね、なんでそんな値上がりしてるんだろう」
今の日本は米の値段がどんどん上がっているという。
屋敷の中では日本のネットに繋がるので、そういう情報も見ているらしい。
ちなみにここは貿易港なので、米も少し割高ではある。
「お米は美味しいんだよ、まあ日本はデフレマインドが骨の髄まで染み込んでるし」
「デフレマインドとは?」
「安さこそ正義、安さこそがお客様のためっていう考え方」
「はぁ、でもそんなに安いっていいものですかね」
「安かろう悪かろうとか、安物買いの銭失いとかそういう言葉があるのにね」
安かろう悪かろうや安物買いの銭失いという言葉があるのが日本だ。
日本の今の米の値上がりは適正な価格に戻っただけなのだろうか。
それはデフレマインドが骨の髄まで染み込んだ日本人の悪習なのかもしれない。
「お米の値上がりは流石に高いとは感じるけど、それまでは不当に安かったとも感じるしね」
「お米に限らず、日本ってそんなに物価が安い国なんですね」
「まあ安さ競争してた国だからねぇ、牛丼が300円で食べられたのは割と狂ってるよ」
「牛丼が300円は割と狂気ですね」
「ハンバーガーが60円の時代とかあったぐらいだよ」
かつては牛丼が300円でお釣りが来た、ハンバーガーが60円だった。
そんな時代の亡霊に取り憑かれているからこそデフレマインドと言われるのだろう。
異世界にいてあれだが、日本の今の物価は適正価格に戻っただけと感じるのかもしれない。
「さて、次は…鮭おにぎりを頼もうかな」
「私は昆布おにぎりをお願いします」
「やっぱり定番の味はそれだけ美味しいよね」
「はい、定番が美味しいからこそ変わり種の味も美味しいんですよ」
「やっぱりそういうものなんだよね、定番の味が美味しいからこそ変わり種も美味しいっていう」
そんなこんなで理津子は全部で7つほどのおにぎりを平らげた。
帝も最終的な6つほどのおにぎりを完食していた。
食後は水の代わりに出される緑茶を飲み、一息ついてから支払いを済ませて店を出た。
「ふぅ、満足したなぁ、こういうおにぎりってやっぱり美味しいものなんだね」
「また機会があれば一緒に行きませんか」
「いいよ、また機会があればぜひとも誘って欲しいし」
そうして帝を神社に送り届けた後理津子も屋敷に帰った。
米は日本人のソウルフードである、なお帝も米が好きなのだというのは伝わってきた。
帝という名前自体が和名なのもあり、帝は日本の神様なのだろうか。
そんな事も考えつつ屋敷に帰り、また家事を始めるのであった。




