端午の節句
春の暖かさも本格化してきて夏が少しずつ近づいている季節。
そんな中理津子の世界では端午の節句の時期でもある。
なのでせっかくという事もあり、和菓子でも作ろうと思い至る。
柏餅なんかは定番なのである。
「甘い匂いがするわね」
「お前、嗅覚は変に鋭いよな」
「元スパイ部隊のエリートだからなのかな」
そんな中で理津子が作ってきたのはちまきだった。
デザートの和菓子はそれからという事なのか。
「こいつは混ぜご飯か何かかね」
「うん、ちまきを作ってみたんだけど」
「ちまき?ただの混ぜ飯じゃないのか?」
「まあそれには近いものではあるけどね」
「とりあえず食べようよ」
ちまきとは混ぜ飯の一つという事でたぶんいいとは思う。
尤も使うのはもち米なので、餅に近い食感ではある。
それもありもちもちした食感の混ぜ飯といった感じだ。
「ふむ、こいつは美味しいわね、もちもちのご飯だわ」
「もち米で作ってるからね、それを笹の葉に包んで蒸してあるんだよ」
「笹の葉なのかこれ、それを蒸したって事は炊いてるわけでもないのか」
「ちまきは基本的には蒸して作るものだよ、もち米だからなんだとは思うけどね」
「でも具沢山で美味しいかも、いろんな味がするし」
ちまきはその具の量が美味しさの理由なのかもしれない。
肉や干しエビなど、しいたけなどいろいろ使ってあるのもまた美味しさの理由だ。
そうしたものから旨味が米にも染みているからなのだろう。
「うん、美味かった、蒸して作るご飯も美味しいもんね」
「それは何よりだね、もち米が手に入るとは思わなかったからちょうどよかったよ」
「異世界との交流が始まっていろんな食材が入ってくるようになったのもあるしな」
「とりあえず食べ終わったね、和菓子持ってくるから待ってて」
「食後のデザートだね、うん、お願い」
そうして持ってきたのは柏餅と草餅である。
端午の節句という事もあり、作ったのが柏餅と草餅だ。
中のあんこも自家製なので、きちんと美味しい。
「お、来たね、餅みたいだわ」
「うん、柏餅と草餅だよ、中のあんこも自分で作ったから」
「そういうのは出来合いでいいのに、よく作るよな」
「ただの変人のやってる事だからね」
「そういうのを自分で作るって大変だと思うのにね」
そんな柏餅と草餅は今回はこしあんで作った様子。
ちなみに理津子はつぶあん派らしい。
とはいえこういうものにはこしあんの方が合うのだとか。
「でもなんでこういうのなんかね」
「あたしの世界だと今は端午の節句なんだよね、男の子のお祭りみたいな祝日ね」
「それでなのか、お前は女なのに、よくやるな」
「そういうのに関係なく美味しいものが食べられるからやってるだけだよ」
「リツコって祝日の趣旨とか関係なく美味しいものが食べたいだけだよね」
理津子は美味しいものが食べられれば特にそのイベントの趣旨などは気にしないタイプだ。
なのでどんな日であっても美味しいものを食べる事を優先する。
端午の節句も美味しいものを食べたいからという理由だけである。
「そういや思ったんだけど、りっちんの住んでた国って祝日多くない?」
「確かに世界の国で見たら祝日が多い国とは言われてるっぽいね」
「なんでなんだ?労働者に優しいっていう事でもないだろ」
「聞いた話だと、祝日で無理矢理休ませないと休まないっていう事が理由っぽいよ」
「つまり祝日は無理矢理休ませるための日で、意図的にそれが多めに設定されてるの?」
本当かどうかは分からないが、日本の祝日が世界的に見ても多い理由。
それは無理矢理にでも休ませないと、労働者が休まずに働いてしまうかららしい。
一説でしかないので、それが本当かどうかは分からないが、そういう理由らしい。
「そんなに働きたがりな国民性なんかね、りっちんの国の人って」
「まあ少なくとも休みの日でも休みがないような職業もあったりするしね」
「それでも休まないっていう人が多いのか?」
「そうだとは思うよ、だから祝日で無理矢理休ませるんだとか」
「それだけ勤勉なのか、ただ休む事への罪悪感とかなのか」
なんにしても日本に祝日が多い理由の一説ではあるらしい。
それは祝日を作って無理矢理休ませるために、世界的に見て祝日が多いとか。
祝日に無理矢理休ませるでもしないと休まないのだろうか。
「うん、美味しかったわよ」
「それはどうもね」
「普段からでも食べられる味だなこれは」
「普段からでも食べたいよね」
そんな端午の節句の食べ物も意外と美味しい。
普段からでも食べられそうなのも大きいとは感じる。
特別な日に食べるものとはいえ、普段から食べても別にいい。
理津子にとっては美味しいものが食べられる事が最優先なのだ。




