穏やかな気候
すっかり春本番となり外は温かな風が吹き始めた。
そんな中理津子が思うのはその気温。
こちらの世界はこの季節に初夏のような暑さという事はない。
穏やかな気候というのはやはり落ち着くようだ。
「はぁ、やっと暖かくなった感じがする」
「おや、リツコではないですか」
「あっ、サイン、相変わらずみたいだね」
甘いものを売っている店の近くに行くとよくサインと遭遇する。
甘いものは人を引き寄せるという事なのだろうか。
「それにしても暖かくなったね」
「そうですね、春も本番という感じですよ」
「こっちの世界は穏やかな気候でいいね、気持ちいいよ」
「リツコの世界はこの季節にはもう暑いとかなんですか?」
「暑いというか、寒暖差がね、暑い時はこの時期に初夏みたいな気温になるし」
理津子の世界だとこの時期にすでに初夏のような暖かさになる事もある。
なのでこの世界は穏やかな気候という事が落ち着くのだろう。
夏も暑すぎないという事もあり、暑さに苦しめられる事がないのが嬉しいのだ。
「この時期に初夏みたいな暑さにならないだけ過ごしやすくていいよね」
「リツコの世界はこの時期にもう初夏というのは、砂漠にでも住んでるんですか」
「別に普通のコンクリートジャングルだけど」
「それは熱が逃げないとかそういう事なんですか?」
「夏は確かに照り返しとかあるし、外気の関係とかもあるけどね」
コンクリートジャングルは夏は普通に暑くなる。
とはいえそれよりも春なのに初夏みたいな暑さの方がきついという事らしい。
なのでそうした春なのに初夏みたいな暑さがないという事が落ち着くのだとも。
「夏もこっちはここが港町だから割と涼しいしね」
「リツコはどんな環境で暮らしてたんですか?そんなに暑いというのは」
「うーん、高温多湿な暑さの国だからね」
「高温多湿、蒸し暑いという事ですよね」
「そうだよ、夏は凄い蒸し蒸しするから、不快感のある暑さなんだよね」
高温多湿な夏というのはそれだけ不快感があるもの。
そんな夏が当たり前の国で過ごしていれば暑さに対する認識も変わる。
さらに春に初夏のような暑さになるという事が暑さをより不快なものへと変えている。
「実際砂漠や赤道近くの地域から来た外国の人が、あたしの住んでた国の方が暑いって言うし」
「砂漠の地域に住んでいる人が砂漠より暑いっていうのは、流石におかしいのでは?」
「要するに暑さのタイプの違いなんだよね、砂漠はカラッと乾いた暑さなんだよ」
「その一方でリツコの住んでいた国はジメジメとした蒸し暑い国ですか」
「そうそう、だから砂漠よりも暑さに感じるものが違うんだと思うよ」
砂漠や赤道近くの国から来た人が母国より暑いという日本の夏。
それは湿度の有無が何よりも大きいという事なのか。
そして近年は春なのに初夏のような暑さになるというのだから、たまったものではない。
「近年は春なのにほぼ初夏だったから、こっちの世界の気候が凄い過ごしやすいんだよ」
「なるほど、過ごしやすいという理由がそこにあるんですね」
「港町だから海風もあるのが大きいのかもね」
「しかし、その話を聞くとリツコの住んでいた国はどれだけの環境なんですか」
「島国っていうのもあるんだろうね、夏の台風一過なんて気温爆上がりするもん」
夏に台風が過ぎ去った日は気温が一気に上がる事もある。
夏は高温多湿であり、冬は低温乾燥な気候の島国。
気温への感覚がバグるのも分かる話である。
「こっちの世界は過ごしやすいよねぇ、暑すぎないっていうのはいいよ」
「リツコが暑い国から来たというのが分かる言葉ですね」
「本当だよ、春なのに初夏みたいな暑さとか凄い環境だよね」
「それはただ異常気象だっただけでは」
「温暖化とか言われてるけど、確かに昔と比べると5度は平均気温が上がってるしね」
実際昭和の頃の夏はもっと涼しかった。
理津子も父親や母親からそういう話は聞いた事がある。
やはり平均気温が上がっているという事なのである。
「気温が安定してるっていうのはあたしからしたら新鮮なんだよね」
「夏でも今より平均気温が低かった訳ですよね?」
「うん、当時は30度で猛暑扱いだったらしいしね」
「それが平均して5度ぐらい上がっているというのは凄いですね」
「あたしは当時の事とか知らないし、それでも話を聞けばなんとなくは分かるんだよね」
異世界というだけで気候が変わるというのはあるあるなのだろう。
春に初夏のような暑さがないというだけで理津子は過ごしやすいと感じる。
暑いというのはやはり不快なのだという事なのだろうか。
「さて、そろそろ行かなきゃ」
「ええ、またリツコの世界の話を聞かせてくださいね」
「うん、それじゃまたね」
そんな異世界の気候の穏やかさを感じる理津子。
日本という国の暑さがどんなものだったのかを改めて感じる。
やはり春はこういう暖かさが一番いい。
春なのに初夏の暑さってどういう事だよ。




