嘘を言っていい日
春も本格化してきて寒さはすっかり落ち着いた様子。
そんな温かさに触れていると眠気にも教われてくる。
そして理津子の世界ではそろそろあれの日らしい。
とはいえこっちの世界にはそんなものは存在しないのだが。
「ふぅ、すっかり春本番って感じだね」
「おや、リツコじゃないですか」
「あっ、帝、外に出てるなんて珍しいね」
そこで遭遇したのは帝だった。
引きこもり生活とはいえたまには外に出る日もある様子。
「帝は日光浴かな」
「たまに外に出ないと駄目ってエミールに言われたので」
「それで甘いものでも食べに来たのか」
「ええ、ある程度時間を潰したら帰りますよ」
「帝は基本的に室内でネット生活だもんね」
帝の生活の基本は引きこもってネット通販をしながら小説を書く事。
世話のほとんどはエミールに任せている事もあり、基本的にはだらしない感じでもある。
とはいえ乾麺を茹でたりレンジでチンやオーブンでブンするような料理は作れるようだ。
「そういえばあたしの世界だと今日はエイプリルフールなんだよね」
「えいぷりる?なんですかそれ?」
「簡単に言うと嘘を言っても許される日みたいな話だね」
「なるほど、そのエイプリルフールだけはどんな嘘も許されると」
「うん、まあ流石に言うべき嘘は選ばなきゃいけないみたいな感じはあるけどね」
エイプリルフール、嘘を言っても許される日である。
なおガチでやばい嘘を言って燃えてしまう事もあるのが現実。
とはいえ基本的にはそんな嘘を楽しむ日でもある。
「エイプリルフールっていうとゲームとかアニメの公式が嘘ネタを出すのが鉄板なんだよね」
「ゲームとかアニメの公式がわざわざ嘘を提供してくれるんですか?」
「そう、しかもその日限定で本当に遊べるゲームがあるとかまであるよ」
「それは凄いですね、そういう事が出来るというのは豊かな証拠とも言えるかもしれません」
「実際嘘を楽しむのは一般の人より会社とかがやる方がメインだよね」
エイプリルフールにガチになるのは企業や会社側だったりする。
なので楽しんでいるのは寧ろそうした企業や会社側なのである。
それを全力で楽しむのがエイプリルフールというものだ。
「こっちの世界だとエイプリルフールとかないからねぇ」
「まあリツコの世界とは違うわけですからね」
「でもエイプリルフールを楽しむのは企業とか会社側なんだよね」
「そういう全力で乗っかってくるのは嫌いじゃないですね」
「そうなんだよね、ファストフードとかお菓子メーカーなんかも乗っかってくるし」
エイプリルフールに乗っかってくるのはそれこそあらゆる会社や公式だったりする。
それはそれだけ企業に体力があるという事でもある。
やはり祭りには全力で乗っかれという日本の気質なのかもしれない。
「でも帝は嘘を言ったりしないの」
「嘘は苦手なんですよね、エイプリルフールとか関係なく」
「ふーん、顔に出るとかそういう事なのかな」
「それは分かりませんが、嘘をつくのが苦手だとエミールに指摘された事はあります」
「そっか、帝は嘘を言うのが苦手、なるほど」
帝曰く嘘を言うのが苦手なのだという。
エミールにそれを指摘されたという事もあり、恐らく本当なのだろう。
とはいえ嘘を言うのを楽しむような文化がないのもあるのか。
「でもエイプリルフールを全力で楽しむ会社や公式は見てて楽しいものだよ」
「祭りに全力で乗っかってくるというのは見てる方も楽しそうですよね」
「そうなんだよね、日本人の気質って感じなのかもしれない」
「お祭りが好きというのが国民性というか、気質なんですね」
「そうそう、日本人ってお祭り大好きだからね」
日本人はお祭りが大好きな気質がある。
なのでエイプリルフールにも会社や公式が全力で乗っかってくるのだろう。
祭りには全力で乗っかる方が得だという事なのかもしれない。
「エイプリルフールの面白さは会社や公式が全力で乗っかる事にあるんだよね」
「つまり会社や公式がその一日のためだけに全力でネタを提供する事だと」
「そうそう、それがエイプリルフールの一番の面白さだよ」
「そういう事が出来る文化というのは凄くいいと思いますね」
「エイプリルフールの面白さはそこにあるからね」
祭りには全力で乗っかる方が得だという考えが割と浸透しているという事。
エイプリルフールのためだけにネタを作るというその本気っぷりが楽しいのだと。
たった一日のために本気になるのが楽しいのだから。
「さて、そろそろ行かなきゃ」
「私もそろそろ帰ります、お花見の時を楽しみにしてますね」
「うん、それじゃね」
帝は嘘をつくのが苦手という話。
エイプリルフールには会社や公式が全力で乗っかるという楽しさ。
楽しい事は共有しようという事でもある。
祭りには全力で乗っかる方が得だという事なのだから。




