港町の特権
寒さが身に染みる冬の港町。
そんな冬であっても港町には海産物が多く並んでいる。
冬の魚は寒い海という環境にあるからこそ美味しくなったりもする。
港町という環境は美味しい魚が食べられる特権があるのである。
「…異世界にもお寿司屋ってあったのか、ちょっと気になるな」
「とりあえず入ってみようかな、気になるし」
「よし、行こう」
港町なのだから魚料理の店は当然多い。
そんな中まさかの寿司屋を見つけた理津子、街は広いという事か。
「お邪魔します」
「いらっしゃい、もしかして一見さんかい」
「はい、大丈夫ですよね?」
「問題ないよ、とりあえずお茶でも淹れるから適当にかけてくれ」
「あ、はい、分かりました」
入り口だけ見たら格式ありそうな風貌だが、実際はそうでもない様子。
お茶を出してくれたのでそのまま席につく。
異世界で寿司屋に出会うとは理津子も思っていなかった様子。
「ここはお寿司屋でいいんですよね?」
「そうだよ、東の国に修行に行って認められたれっきとした寿司屋だ」
「なら安心かな、この時期は何が美味しいの?」
「そうだねぇ、ならお任せも出来るけど、どうする?」
「そうだね、ならお任せを頼んでいい」
とりあえずはお任せを頼む事にした理津子。
値段は気になるものの、お金は持っているので多少高くても払えはする。
とはいえこういう店は時価だったりするのが怖さでもある。
「まずはマグロだね」
「おう、冬のマグロは美味いぜ」
「…確かに美味しい、鮮度もいいし、これは本物だ」
「港町の特権ってやつさ、次はこいつな」
「イカ、うん、これも美味しい、コリコリであたしの好きな味だ」
大将のおすすめで順に寿司が出てくる。
自分の世界とは少し異なるものの、大体は同じ寿司の様子。
港町という事もありその美味しさは本物のようだ。
「えっと、先に値段を聞いてもいいですか?失礼でなければ」
「お任せだと800メイル、味噌汁付きだと1000メイルだな」
「安い…港町価格だ、なら安心かな、味噌汁もつけてもらっていいですか」
「おう、了解だ、味噌汁も美味いからな」
「港町のお寿司屋さんは裏切らないな」
そのまま順次お任せの寿司が出てくる。
どれも美味しく、この味なら都会では安くても三倍は取られるものである。
港町の寿司屋というのはまさに産地直送による特権なのだろう。
「うん、美味しい、大将は認められただけあるんだね」
「まあな、東の国に修行に行って10年修行したんだ」
「10年、寿司屋の世界は厳しいね」
「そんじゃ寿司は大体出し終わったし、味噌汁な、美味いぜ」
「ありがとう、いただきます」
出された味噌汁はカニが入ったものだった。
カニの味が溢れ出た味噌汁はそれだけで美味なものである。
そして何より体も温まるので寒い日には嬉しいものだ。
「はぁ、美味しかった」
「それにしても、お嬢さん、寿司を手で食ってたって事は分かってる人だな?」
「分かってるっていうか、あたしはお寿司は基本的に手で食べてるんだけど」
「意外と通みたいな食い方をするんで驚いちまったよ」
「お寿司はお箸で食べる事も多いけど、あたしは手で食べるのが好きだから」
理津子は寿司は手掴みで食べるタイプの人の様子。
実際それが寿司屋の人には意外な映った様子。
とはいえ食べ方は自由なので、そこを強制はしないという事のようだ。
「とりあえずごちそうさまでした」
「おう、にしてもいい食べっぷりだったな、嬉しくなっちまったぜ」
「あたしは食べ物は極力残さずに食べる事がポリシーだからね」
「ははっ、いいねぇ、ならまた来てくれよ」
「うん、そうだ、この時期に美味しい魚とかあったら教えてくれない」
せっかくなので今の時期に美味しい魚を大将に聞いてみる。
屋敷でも今夜は魚料理にしようという事に決めた様子。
なので魚に詳しい寿司屋に聞いてみる事にした。
「何か美味しい魚とかあれば教えて欲しいんだけど」
「そうだなぁ、今の時期だとこんな感じだな」
「…なるほど、ありがとう、参考になったよ」
「いいって事よ、魚を食ってくれるってだけでも嬉しいしな」
「ふふっ、そうだね、それじゃごちそうさまでした」
そうして店を出る理津子。
異世界で食べた寿司は想像以上に美味しかった様子。
値段を考えても港町という土地の特権を感じたのもあったようだ。
「それにしても港町のお寿司はまさに特権って感じだったなぁ」
「…せっかくだから卵焼きでも買って帰ろうかな」
「お店の卵焼きも美味しいしね」
寿司屋を満喫した様子の理津子。
その帰りに卵焼きを買って帰ったようである。
港町の寿司屋はその美味しさと値段が釣り合わないぐらいに美味しい。
まさに特権とも言える価格で美味しいお寿司が食べられるのである。




