フードコートの思い出
すっかり寒くなり冬が始まった寒い季節。
港町は海風があるため気温以上に寒く感じる事もある。
そんな中買い物帰りに買い食いする事も珍しくない理津子。
スーパーなどにあるフードコートには思い出もあるようで。
「ふぅ、やっぱりこの味はなんか不思議な味かも」
「おや、リツコサン、買い物帰りデスか」
「あ、エミール、うん、そうだけど」
フードコートでソフトクリームをいただいているとエミールに遭遇する。
せっかくなので一緒になる事に。
「エミールも何か食べるの?」
「ハイ、たまに食べたくなるのデスよ」
「分かる、フードコートって不思議な魔力みたいなのがあるよね」
「こういう味はなぜか食べたくなる不思議はありマスから」
「あたしもお父さんと買い物に行った時に食べたフードコートのポテトが好きだったなぁ」
理津子の家では家事は料理は基本的に父親がやっていた。
母親も家事はするものの、料理は和菓子作りは得意だがそれ以外は並程度だったとか。
とはいえ母親にやってもらった事といえば、衣類関係などは母親の思い出が強いらしい。
「フードコートの食べ物ってそれこそ業務用を温めただけみたいなものが多いのにね」
「それなのになぜか美味しいのデスよね」
「お父さんと一緒に食べたフードコートのポテトは今でも思い出だよ」
「リツコサンの家では父親が料理をするのデスか?」
「基本的にはね、お母さんは和菓子作りと裁縫なんかは得意だったけど」
理津子の母親はミシンの扱いが上手く、理津子の服なんかはそれも多かった。
小学校の時なんかに使っていたものは母親の手製のものも多く、注目されていたとか。
その一方で遠足の時の弁当などは父親の手製で、そっちもまた注目されていたらしい。
「フードコートの食べ物ってなんでこんな美味しく感じるんだろうね」
「思い出補正も強いとは思いマス、学生時代とか子供の時代とか」
「あー、それは大きいけど、大人になってからもたまに食べたくなるんだよね」
「こういう業務用の食べ物というのはシンプルながら不思議と美味しいものなのデスよね」
「高級ではないけど、その人にとっては美味しく感じる食べ物か」
フードコートの食べ物は思い出補正も強いという事なのか。
とはいえ確かにフードコートの食べ物は業務用を使っていたりする事は多い。
なので割とありきたりな定番の味という事でもある。
「でもエミールもこういうところで食べるんだね」
「ハイ、たまに食べたくなるのデスよ」
「やっぱり不思議な魅力みたいなのがあるのかな、フードコートって」
「軽く食べるには最適デスからね、こういうのは」
「それに加えて結構ガッツリ食べられるものもあったりするしね」
フードコートは軽食からきちんとした食事まである。
昔から人気なものはやはりフライドポテトやソフトクリームなのだろう。
異世界でもフードコートでフライドポテトやソフトクリームが食べられるのは嬉しい限りだ。
「でもまさか異世界でもあたしの世界にあったようなものが食べられるとはねぇ」
「ここは人界デスから、様々な世界から入ってきた食べ物も多いのデスよ」
「だからあたしの世界にあった食べ物なんかも普通に見るのか」
「フライドポテトやソフトクリームは獣界から入ってきたものデスよ」
「そういえば獣界って野菜や乳製品が美味しい世界だったね」
フライドポテトもソフトクリームも獣界から入ってきたとエミールは言う。
獣界は野菜や乳製品が主な産業の世界なのだから納得ではある。
その一方で果物は獣界ではなく空界から入ってきたものが多いらしい。
「フライドポテトは太めの方が美味しいかな、やっぱり」
「リツコサンは太めのポテトが好きなのデスね」
「うん、まあ本当に好きなのは皮付きのくし形切りのやつなんだけど」
「その辺は好みの問題デスね、皮付きのやつが美味しいのは認めマスが」
「皮付きのやつはフライドポテトだと一番ホクホク感があるからいいんだよね」
フライドポテトの好みは人によるもの。
尤も今日食べているのはフライドポテトではなくソフトクリームではあるが。
せっかくだからじゃがいもを買って屋敷で作るかと考えているようだ。
「でもこういうシンプルなソフトクリームが一番美味しいのかも」
「本当に美味しいソフトクリームを知らない人の意見デスね、それは」
「確かに牧場のソフトクリームは美味しいけどね、最後に行き着く味はこういうのでしょ」
「そんなものデスか?」
「高級なアイスは確かに美味しいけど、結局はこういうのが最期に食べたい味なんだよ」
理津子曰く高いアイスが美味しいのは決して否定はしない。
だが死ぬ前に食べたいのはこういうものなのかもしれないと思っている。
それは最期に何を食べたいかという一種の問いかけなのかもしれない。
「さて、そろそろ行かなきゃ」
「もうすぐ年末年始デスから、その時には神社に来てクダサイね」
「うん、それじゃまたね」
フードコートの食べ物にある不思議な魔力。
上品なものではないが、子供の時の思い出もまた大きいという事なのかもしれない。
フードコートのフライドポテトやソフトクリームは学生時代の思い出。
不思議な美味しさがそこの食べ物にはあるのだろう、きっと。




