革命という難題
すっかり暑くなり外に出る際にも日差しが強くなってきた。
それもあり先日日傘を買った様子の理津子。
それもあってか日差しからはすっかり守られているようだ。
そんな中例の青年とまた出くわしたようで。
「つきあってもらってすみません」
「いや、君と話していると不思議と楽しいからね」
「はぁ、そういえばお兄さんは貴族…なんでしたっけ」
その謎の青年は貴族、またはそれ以上の高貴な身分だという事は確定している。
名前や正体はあえて言わないし聞かないのは、そういう空気だからなのか。
「そうだ、お兄さんは革命ってどう思いますか」
「革命?それはクーデターや暗殺といった事を指し示していると捉えていいのかな」
「まあ一応…そうですけど」
「そうだね、では例えば人気のパン屋があったとする、店員はオーナーに不満があるとする」
「そのオーナーをどうにかして乗っ取りたい、という事ですか?」
青年はパン屋を例えに出してきた。
人気のパン屋がありオーナーに不満を持つ店員がいるとする。
そのオーナーをどうにかして乗っ取りたいと店員は目論んでいるとする。
「手段を問わないのであれば、オーナーを闇討ちして不審死させる…とか?」
「うん、手段はそういう手段に出るだろうね、では乗っ取ってからはどうするかな」
「それは自分達のやりたい事を始める…ですよね?」
「そうだね、ではそれを始めたらオーナーの時よりも売れると思うかな?」
「人気のパン屋だからオーナーの作るパンが人気ですよね?お客さんは離れるんじゃ…」
青年曰く革命とはそういう事だという。
影響力や人気のある人というのはその人自体に意味がある。
革命とはそういう事で、即時即刻何かが変わる事はなく、民はそのオーナーを尊ぶのだと。
「つまり革命をしたところで国は変わるどころか、その殺された人の弔い合戦になる、と?」
「その可能性はあるね、その一方でその人をやっかんでた人はここ一番に攻勢に出るだろう」
「つまり内紛に発展する、俗に言う内ゲバっていう事ですか」
「僕は歴史も学んでいる、歴史を学ぶ中で革命は何度か出てくるんだよ」
「でも暗殺やクーデターに成功しても、その政権はほとんどが長く続かない、ですね」
青年曰く革命に成功したところで、その政権はいずれも短命に終わっているという。
要するに政治の素人が革命を起こし政権を握ったところで政治など出来るはずもなく。
その結果内ゲバに発展し政権は崩壊、国は不安定になり、再び元の鞘に収まるのだと。
「パン屋の話もそういう事なんですね」
「革命もそういう事だよ、暗殺される王族や政治家は相応のカリスマ性を持っている」
「民に人気だったり信頼されるっていうのはそこに結果が伴っているから、ですか」
「力で何かを変えようとして成功した事例はこの国どころか世界を見渡してもほぼないんだよ」
「それこそ恐怖政治を敷いて民を抑え込みでもしない限りですか」
青年曰く何かを変えるというのは途方もない時間を要するのだという。
少なくとも一代でその何かを変えるのはまず不可能だろうとも。
だからこそ変えるためには何代もかけて途方もない時間をかけてやるしかないとも。
「それだけ何かを変えるっていうのは難しいんですね」
「少なくとも暗殺やクーデターで国が変わるというのはまずありえないだろうね」
「それこそ完全な独裁にして恐怖政治でも敷かない限りは、ですね」
「僕が学んだ歴史において革命が成功した事例はほぼ存在しないからね」
「なるほど、それだけ何かを変えるっていうのは難しいっていう事ですか」
青年も何かを変えるという事の難しさは分かっているのだろう。
そして歴史において革命で何かが変わった事例はほぼないのだとも。
だからこそ革命を起こしたところで政治の知識のない者達に国の運営が出来るはずがないと。
「少し変な事を聞いてしまったけど、親切に答えてくれてありがとう」
「別にいいさ、夏の終わりまではこの街にいるから、また会ったら話でもしよう」
「はい、ならそうします」
そんな青年は変な事を聞いても答えてくれる程度には誠実な様子。
とはいえ高貴な身分になると学ぶ事も多いのだと理津子は実感する。
革命は歴史の中で何度か起きているが、成功した事例はほぼない。
それは何かを変えるという事の難しさなのかもしれない。




