代用品の開発
夏も少しずつ近づいてきていて少しずつ暑くなり始めている季節。
とはいえ夏本番はまだ先なので、それに備えておくだけにする。
そんな中こっちの世界は主にパン食の文化である事を考える。
米も手に入るものの、パン食の文化において気になっている事が一つ。
「りっちんはすっかりパンも焼くようになったわね」
「料理は元々得意だからな、パンぐらいは簡単に焼けるんだろ」
「クロワッサン焼き始めてる時点で結構凝り性だよね」
そんなパンもすっかり自分で焼くようになった理津子。
食パンなんかも自分で焼いてくるのだ。
「いい匂いのパンだねぇ」
「お父さんから聞いたホテルブレッドだからね」
「お前、本当に父親の背中を見て育ったんだな」
「カリッカリに焼いてあるからとりあえず食べようか」
「だね、美味しいパンは好きだし」
そんなパンに何を塗るのかは人の好みにもよる。
ジャムやパター、チョコスプレッドやピーナツバターなど。
ちなみに理津子はマーマレード派らしい。
「うん、美味い、やっぱりパンにはジャム一択よね」
「アノットは甘いものが好きだもんね」
「パンにはシンプルにバターこそが至高だろ」
「バターで思い出したけど、この世界ってマーガリンってないのかな」
「マーガリン?なにそれ」
こっちの世界ではバターが品薄という事も特にない。
なのでマーガリンを開発する理由がそもそもないのである。
それもありこっちの世界にマーガリンは存在しないのだ。
「マーガリンってなんじゃね」
「あたしの世界のバターの代用品の事だよ」
「バターの代用品?お前の世界だとバターは高級品だったりするのか?」
「高級品というほどではないけど、流通量が少なくて一般家庭にはあまり回ってこないかな」
「それで開発されたのがそのマーガリンなんだ」
理津子の世界というか、国の話ではある。
なぜかバターがやたら品薄であり、パンに塗るのはバターではなくマーガリンだった。
それもありパンに普通にバターを塗って食べられるこっちの世界は新鮮な様子。
「つまりバターが品薄だから、一般家庭はマーガリンを使ってたとかそういう事かね」
「うん、あたしも家で食パンを食べる時はほぼマーガリンだったよ」
「でもなんで品薄になるんだ?酪農家が少ないっていう事でもないんだろ?」
「それはあるね、国が既得権益でそういう事してたっていうのは聞いたけど」
「それがバターが謎の品薄になる理由なのか」
バターが謎の品薄になる理由は国の既得権益。
間違ってもいないのがまたなんともな話ではある。
それもありマーガリンを食べる機会の方が圧倒的に多かったという事でもある。
「でも代用品が意発されるほどの品薄ってやばくね?」
「作ろうと思えば作れるっていうのは聞いたしね」
「結局は国の役人がそういう事をしてたって事なんだな」
「マーガリンも不味くはないけど、バターで食べる食パンの美味しさは格別だよね」
「バターが一般に回ってこない程度の品薄だから、代用品が開発されたのか」
マーガリンとバターの関係はなんとも言いにくいものがある。
結局はバターの品薄がマーガリンを開発させたとも言えるのか。
こっちの世界に来てバターで食べるトーストの美味しさを理解したようである。
「でもそのマーガリンも不味いって事もないんでしょ」
「不味いっていうのはないかな、ただ食パンにはバターよりマーガリンが多かったけど」
「それはつまりバターに似た味のものを作ったっていう事なんだな」
「そんな感じだね」
「マーガリンってこの世界には存在しない食べ物だもんね、バターが普通に買えるし」
この世界にマーガリンがないのはそもそもバターが普通に買えるからである。
普通に買えるのに代用品を開発する理由がないだけの話だ。
マーガリンとバターの話はつまりそういう事なのである。
「マーガリン、人間足りないと作り出すって事なんかしら」
「かもしれないね、バターは洋菓子店とかはたくさん使うし」
「複雑な話だな、一般にはあまり回ってこないとは」
「売ってるには売ってるんだけどね」
「でもマーガリンの方が主流になりつつあるのか」
理津子の住んでいた国の事情。
バターとマーガリンはそうした既得権益も絡んでくる。
代用品だったものが気がつけば主流になりつつある。
「うん、美味かったぜぇ」
「それはどうもね」
「パンも美味しく焼ける辺り流石だよな」
「パンに塗るものも好みが出るよね」
食パンに塗るものは好みが出る。
とはいえこの世界では食パンは実はない。
この家で理津子が焼いているからこそ食べられるのだ。
ないなら作ればいいという話である。




