鬼を退治する
少しずつ暖かくはなったが今はまだ冬の港町の冬の寒さ。
そんな最近は理津子の世界では節分の時期。
こっちの世界とでは一週間の日数も違うので今辺りが節分に当たる。
豆まきをしようとも思ったが、豆まきをする理由は特になかった。
「りっちんの世界のイベントってのは不思議なものも多いわよね」
「この時期は節分っていうイベントらしいしな」
「豆をまいて鬼を追い払うんだっけ」
豆まきをする理由も特になく、とりあえず恵方巻でも作る事にした。
もちろん丸かじりする理由もなく普通に切って食べるが。
「おや、太巻きかね」
「恵方巻ね、まあなんとなく作っただけだけど」
「去年なんかも作ってたけど、節分の時に食べるものなのか?」
「恵方巻は元々狭い地域の文化らしいけどね」
「とりあえず食べようよ」
そんなわけで恵方巻をいただく事に。
海の幸も手に入る港町なので、具材はいろいろ試せる。
太巻きもそれはそれで美味しいものである。
「にしても節分って鬼を追い払うイベントなんっしょ」
「うん、豆をぶつけて鬼を追い払うイベントだね」
「鬼に豆が効くのか?」
「聞いた話では豆に魔除けの力があるみたいな話らしいけど」
「魔除けって、豆ってそんな力があるの?」
節分の豆まきは豆に魔除けの力があるとかなんとからしい。
なのでそれを鬼にぶつける事で追い払うイベントである。
そうした伝統のようなものが残っているのも実は凄い事なのか。
「そもそも鬼っていうのはなんなんよ」
「うーん、英訳するとデーモンって翻訳される事は多いかな」
「つまり悪魔の仲間なのか?」
「あくまでも翻訳でしかないけど、西側の国からしたらそうなのかもね」
「悪魔かぁ、でも悪魔祓いがイコールで鬼退治って事なのかな」
鬼や妖怪を英訳するとデーモンと翻訳される事は多い。
とはいえ悪魔かと言われればまた微妙なところである。
鬼はともかく、妖怪に関しては必ずしも悪しき存在ではないのもある。
「鬼が悪魔なら節分って要するに悪魔祓いの儀式的なもんなのかね」
「鬼って要するに西側の国で言うオーガなんだと思うよ」
「オーガって事は要するに悪鬼の事だな」
「うん、まあ文化が違う国から見たら似たものはたぶんオーガだと思う」
「でも鬼って悪いものであるっていうイメージなんだね」
ただそれでも泣いた赤鬼なんていう話が存在していたりもする。
そうした価値観を持っているのは国民性とでも言うべきか。
鬼というものへの認識もまた様々なのであろう。
「んで鬼っていうのは世間的には悪者扱いなんよね」
「うーん、物語の中とかでは悪い存在として扱われる事は多いかな」
「それでも鬼は悪魔みたいなものなんだろ」
「それはそうなんだけどね、ただ鬼っていうのも現代だと解釈も多様になってるし」
「その辺は時代と共に人の考え方や受け止め方も変わったって事なんだね」
そうしたところはやはり想像力豊かな国民という事でもあるのか。
鬼もすっかり萌え化されてしまっていたりするのは時代を感じさせる。
尤も節分においての鬼退治というのは文化の側面の方が強いとも言えるが。
「節分は鬼退治のイベントっていうのはなんとなく分かったけれども」
「鬼退治もあるけど、同時に福招きもあるんだよね、節分って」
「福招きって事は幸せを呼び込むって事だよな」
「そう、鬼を退治して福を呼び込むのが節分だからね」
「つまり災いを祓って幸福を呼び込むのが節分なんだね」
節分とはただ鬼を追い払うイベントではない。
鬼を追い払い福を呼び込むのが正しい節分の姿である。
尤もすっかり恵方巻のイメージが強くなってしまっている気はするが。
「にしても恵方巻って節分の日の特別なもんって感じなんかね」
「元々は狭い地域の文化なんだけど、商売で全国区になった感じかな」
「逞しいな、その商売っていうのは」
「結局はお金の匂いがしたからお金儲けになりそうって事で広まったものだよね」
「恵方巻ってつまりは全国区の文化でもなんでもないって事なんだね」
恵方巻は商売の匂いを嗅ぎつけた人達が広めようとしているものである。
元々は狭い地域の狭い文化でもあった。
お金の匂いに敏感なのは世界や人種などは関係ない能力なのかもしれない。
「うん、美味かった」
「それはありがとうね」
「こういうイベントの食べ物はそれはそれで悪くないしな」
「節分が不思議なイベントなのも分かったしね」
節分は邪を払い福を呼び込むイベントである。
なので鬼を退治するだけのイベントではない。
恵方巻も商売の匂いを嗅ぎつけた人達が流行らせようとしているものでもある。
商人が逞しいのは世界も人種も関係ないのかもしれない。




