育児の事情
寒風が吹く寒い日の港町。
寒い日でも買い物に行く必要があるのは仕方がない。
そんな中子連れの親子を見て少し心が和んだ様子。
そういえばこの世界では育児はどうなっているのか気になった。
「ねえ、この世界って育児とかどうなってるの?」
「ん?リツコも子供が欲しくなったんですか?」
「そういうつもりじゃなくて、なんとなく気になっただけだけど」
買い物帰りにセテラと遭遇した様子の理津子。
せっかくなので休憩がてら見かけた子供の事も気になり、聞いてみた。
「この世界だと子育てとかどうなってるの?」
「そうですね、働いている人は昼間はシッターに任せて夜は一緒とかが多いかと」
「へぇ、ベビーシッターとか普通にいるんだ」
「組合なんかもあって、そこから派遣される事が多いですね」
「なるほど、働いてる人はシッターに任せてすぐに職場復帰、逞しいな」
セテラ曰く働いている女性はベビーシッターに任せる事が圧倒的に多いという。
父親も母親も育児はシッターに任せ、夜だけ世話をする感じが基本らしい。
もちろん専業主婦や専業主夫として家を守る人もいるわけだが。
「でもベビーシッターかぁ、あたしの住んでた国だと業界すらなかったな」
「そうなのですか?それならどうやって子育てを?」
「育休、育児休業っていう会社を休んで育児が多かったかな」
「それでは子供を育てるのに使うお金が減ってしまうのではないですか?」
「それは思うんだけど、シッターの業界がそもそもないし、世間的な空気もあったよね」
つまりそういう考え方が今でも蔓延していたというのがある。
それに加え利用する人がほぼいないせいでベビーシッターの業界自体がない。
そして何より育児に対する理解が男側に薄かったというのもある。
「理由はいろいろあったけど、育児は親がやるものっていう空気は強かったかな」
「なるほど、意識の違いというのは大きいわけですか」
「うん、だからベビーシッターっていう業界がまずなかったんだよね」
「ですがそれでは育児にかかるお金を確保出来るのですか?」
「昔なら旦那の稼ぎでなんとかなってたっていうのは聞いてたけど」
こっちの世界では専業主婦も専業主夫もそれになるのは基本的に金持ちがする事という。
中流から下流の家庭では子育てはシッターに任せすぐに職場復帰するのだとか。
それはシッターを雇うのに必要なお金がそこまで高くないのも大きいのだと。
「そういえばベビーシッターって一日雇うといくらぐらいなの?」
「仕事の時間にもよりますが、12時間で大体20000ぐらいですね」
「思ってるより安い…シッターの給料は組合から出るわけだよね」
「そうですよ、任せるのにかかる費用がそれぐらいで給料は月に40万ぐらいだとか」
「へぇ、思ったよりももらえるのか、その雇うのにかかる20000って平均相場だよね?」
セテラ曰くシッターを一日12時間雇った場合の平均相場は20000程度らしい。
その金額は親が丸一日育児をした場合にかかるコストに比べれば全然安いとか。
もし体調を崩そうものならシッター一ヶ月分ぐらいのお金が消えるかららしい。
「でも確かにベビーシッターに任せればお金も確保出来て、体調もある程度は守れるよね」
「ええ、子供を成人まで育てるのにかかる金額は一人につき1000万強と言われていますね」
「そこはあたしの世界とそこまで違わないのか、でもお金がない人はシッターを雇うと」
「寧ろシッターを雇って職場復帰した方が総合的に金銭的な意味でもプラスになるんですよ」
「そこは労働や育児に関する事情が見えるなぁ、世界の違いっていうのか」
ベビーシッターを雇うのは圧倒的に中流から下流の家庭が多いという。
上流の家庭だと女が働かなくてもお金があり、それに加え使用人がいる事も多いからだと。
なので中流から下流の家庭ではシッターを雇い職場復帰した方が総合的にプラスなのだと。
「子育てにも事情があるんだね」
「もちろん毎日雇うという事もなく、休みの日はきちんと親が子育てしますけどね」
「それはまあそうなんだろうね」
「なのでシッターを雇うのはごく普通の話であり、何も珍しい話でもないんですよ」
「なるほどねぇ、子育ての事情ってそういう事なのか」
セテラも機界人ではあるが、そういう事情は知っている。
理津子もそういう当たり前の感覚から世界の違いを感じていた。
国や世界が変われば価値観なども変わってくるという事だ。
「あ、そろそろ帰らないと、面白い話ありがとね」
「いえ、それでは」
「さてっと、帰ろう」
そんな異世界における子育ての事情。
ベビーシッターの業界があり、組合もあるという話。
自分の住んでいた国では名前は知ってても仕事は見た事がなかったもの。
価値観や考え方の違いは世界や国が変われば変わるものである。




