終わる寂しさと悲しさ
冬の寒さが身に染みる冬の港町。
そんな港町でも冬に外で温かいものを食べられるというのはいいものだ。
買い物の帰り際にサインと出会い、寒空の下で温かい肉まんを頬張る。
それは寒い日の一つの幸せなのかもしれない。
「ふぅ、それにしてもサインはあんまんなんだね」
「ええ、この熱々のあんこがいいのですよ」
「この国だとあんこって珍しいって聞いてたけど、外国から入ってきたのかな」
港町であり貿易港でもあるこの街。
それはつまり異国の食べ物があっても不思議ではないという事でもある。
「そういえばこの世界にもいろんなネットサービスがあるけど、機界から来たものなの?」
「ええ、電子系のサービスの多くは機界から持ち込まれたものですよ」
「なるほど、でもデジタルって頻繁に更新されて古いものが淘汰されるイメージだけど」
「そうですね、少なくとも10年前のウェブサイトはほぼ見られませんよ」
「やっぱりなんだ、終わるっていうのは寂しさとか悲しさってあるからなぁ」
サイン曰くデジタルの世界は頻繁にアップデートされていくものだという。
それもあり10年前のウェブサイトはシステムの更新的な理由でほぼ消えるとか。
さらに古くから続く動画配信サービスなども30年続けば大往生だという。
「あたしもよく利用してたサービスの終了は結構堪えるんだよね」
「デジタルはそれが難題なんですよ、機界ですら更新より終了を選択する事も多いですし」
「マジか、機界ってめっちゃ技術が発展してるイメージなのに」
「なのでそれこそ古いシステムはどんどん上書きされていくものなんですよ」
「つまり更新するっていうのは上書き保存なんだね」
機界ですら更新より終了を選ぶ事が多いというアップデート事情。
つまり機界における更新というのは上書き保存であるという事なのだ。
古いものは新しいものに合わせるより新しいもので上書きするという事でもある。
「実際それでどの程度のウェブサービスが終わってきたの?」
「そうですね、今ある老舗の動画配信サービスで35年ぐらいです」
「そういうのはアップデートしつつ多少は残ってるのか」
「ええ、その一方でウェブサイト系のサービスはほぼ消えましたね」
「つまりサービスを利用してサイトを作る系のサービスはそれだけ短命なんだ」
配信系のサービスは動画でも音楽でもそこそこ長く続くという。
その一方でウェブサイト作成系のサービスは10年持てば大往生らしい。
最新のシステムに対応させるためのメンテナンスがそれだけ大変なのが理由だとか。
「作成とかオンラインゲームみたいなのって本当に短命って事でいいの?」
「ええ、最新のシステムに更新するメンテナンスに時間や労力が凄くかかるんですよ」
「それをするのもなくはないって事だよね?」
「物好きはそうしてでも存続させる人はいますね、採算とかを一切気にしない人ですが」
「完全な個人の趣味で続けてるサイトがあるって事なのか、凄いな」
企業系のサービスは採算が取れないと判断すればその時点で見切りをつける。
その一方で完全な個人的な理由で続けている老舗サイトもある。
つまり機界の技術でも企業系と個人運営ではその辺りが大きく違うという事らしい。
「でも個人でやってるサイトってそれだけ維持費とかがかかるのに凄いね」
「そういう完全な個人の運営というのはほぼお金持ちの道楽ですからね」
「やっぱりそういうものなのか、お金持ちって凄いね」
「そうなんですよ、企業が運営してるサービスなんかは採算を取らないといけませんから」
「なるほど、そういう理由もあるのか」
個人で運営しているサービスというのはほぼ金持ちの道楽である。
だからこそ企業系のサービスは採算が取れなくなれば見切りをつける。
サイン曰く機界ではシステムとは上書きするもの、適合させるのは物好きなのだと。
「世界の広さを感じるなぁ、物好きっているんだね」
「ええ、個人で運営してる動画や音楽の配信サイトもありますよ」
「それって違法サイトじゃなくてだよね?」
「ええ、完全な個人です、会社ではなく提供元と個人で契約して配信してますね」
「お金持ちの道楽って凄いものがあるんだね」
そんな完全な個人での運営がされているウェブサイトやサービス。
それは金持ちの道楽であり、機界人でも特に異端であり異質な存在でもあるとか。
更新するより終了を選択するというのはコスト的な理由も大きいという事なのだ。
「さて、そろそろ帰らなきゃ、面白い話ありがとね」
「いえ、私もそろそろ行かないと」
「それじゃまたね」
そんなこの世界におけるネットサービス事情。
機界から持ち込まれた技術であり、機界のそうした運用事情。
更新するより終了を選択するという考えが大きいのが機界らしい。
それは機界という世界におけるシステムへの認識なのかもしれない。




