こたつが欲しくなる
こっちの世界も冬が近づき外も寒くなってきた。
もう冬はすぐそこという事もあり、暖房も稼働し始めている。
その一方で料理も体が温まるものが増えてきた。
そんな理津子は恋しくなっているものがあるようで。
「りっちん、家電の通販サイトとか見て何してんだろ」
「あいつ、なんか欲しいものでもあるのか?」
「暖房はもうあるよね」
家電メーカーのサイトなどを見ている様子の理津子。
この季節はこっちの世界ではあまり見ないものを探しているらしい。
「お、戻ってきた」
「うん、はい、プリン」
「それで何か探しものか?暖房器具ならもうあるだろ」
「こたつが恋しくなって、売ってないかと思って探してたんだよ」
「こたつ?それって暖房器具なの?」
こっちの世界ではこたつは珍しいようで、なかなか見かけない。
そもそもこの屋敷も洋館なのでこたつを置くには向かない。
いっそ一部屋を和室に改装してしまうべきかとも考える。
「こたつって東の国の暖房器具の事よね?」
「こっちの世界ではそうなのかな、まあなんにしてもこたつが恋しいんだよね」
「和室があるならいいとは思うが、今から改装工事をするのか?」
「それで冬に間に合うかなぁ」
「こたつってそんなにいいものなの?」
理津子も家にいた時は冬はこたつにみかんが定番だった。
こっちに来る前の都会での一人暮らしもこたつはしっかりと持っていた。
そんなこたつが恋しいのはやはり性なのか。
「でもこたつってそんなにいいもんなんかい」
「こたつは悪魔の兵器みたいにネタにされる暖房器具だけどね」
「また大層な言い方をされるんだな」
「こたつに入ると出られなくなるみたいなのはあるあるだからね」
「外に出ると寒いっていう事なんだね」
そんなこたつは悪魔の兵器などと言われる代物ではある。
一度入ってしまうと抜け出せなくなり取り込まれてしまうのだ。
それは冬という環境も確実に影響しているのだろうが。
「でもこたつを置くなら洋室じゃ厳しいんでないかね」
「そうなんだよねぇ、今から改装を頼んでも間に合うか分からないし」
「こたつは無理だとしても、気分ぐらいは味わえないのか」
「うーん、せめてみかんでも買えれば少しは気分が味わえると思うんだけど」
「みかんならお店で買えるんじゃないの」
確かにみかんは普通に店で買えるものである。
とはいえこっちの世界のみかんは自分の世界のものに比べると酸味が強い様子。
甘くて美味しいみかんというのはこっちでは珍しいのだ。
「そういやみかんで思い出したけど、りっちんの世界の果物はクソ甘いのよね」
「うん、こっちの世界の果物って安い代わりにあたしの世界のものに比べるとね」
「お前の住んでた国だと果物は高いんだったか?」
「うん、果物は結構高い分それだけ美味しかったんだよね」
「果物の味もこの世界と比べるとまた違うものなんだね」
こたつは無理だとしてもせめてみかんぐらいは食べたいと思う。
とはいえこっちの世界のみかんは不味くはないが、甘くもない。
甘さはあるのだが、理津子の世界のみかんに比べるとかなり酸っぱいのだとか。
「りっちんの国ではこたつにみかんが定番だったんね」
「うん、こたつに入ってみかんを食べるのは冬の定番だよね」
「こっちの世界のみかんは美味しくないのか?」
「うーん、不味いってわけじゃないけど、酸っぱいのが結構強いからね」
「まあこっちだと甘くするみたいなのはそんなに作らないもんね」
甘い果物や野菜というのは農家の努力の結晶である。
こっちの世界だとそういうのを作っている農家がまず存在しない。
なので甘さが強い果物や野菜というのはまず存在しないのだ。
「なんにせよりっちんがみかん好きなのは理解した」
「みかん食べすぎて掌が黄色くなった事もあったっけ」
「お前、それはただの食いすぎだろ」
「冬はそういうものだったんだよ、まあみかんぐらいは買ってこようかな」
「それはいいと思うよ、私も食べたいし」
とりあえずみかんは買ってくる事にした。
お金は好きに使えるという事もあり、ケースで買う事を予定している様子。
味は変わってもみかんはやはり好きなようだ。
「みかん買ってくるならなんかデザートでも作ってよ」
「いいよ、みかん牛乳寒天でも作ってあげるね」
「ならそれも含めて期待してるぞ」
「みかんでデザートも食べられそうだね」
そんな冬の風物詩でもあるみかん。
こたつは恋しいが正直厳しいのは仕方がない。
なのでみかんだけで我慢する事にした。
来年もこっちで過ごせるのならその時は和室に改装してこたつを買おうと決意した。