理津子はパパっ子
最近は寒くなり始め外に出るにも一枚羽織る事が多くなった。
とはいえ定期的に買い物に行く必要があるのは確か。
届けてもらう事も出来るが、自分で買いに行くのも楽しみである。
そんな買い物帰りにアノットと甘いものをいただいていた。
「のぉ、りっちんってさ、パパっ子だよね?」
「うーん、確かにお父さんによく懐いてたとは思うけど」
「りっちんのパパさんって元ホテルの料理人なんじゃろ」
本人も本当かどうかは知らないが、理津子の父親はそう言っている。
その理由などもアノットは気になっているようで。
「りっちんのパパさんは料理上手なんじゃろ」
「うん、家だと料理だけじゃなく家事全般はお父さんがやってたね」
「確かママさんはいいとこのお嬢さんだっけ?」
「親は親の実家の事はあまり話してくれないけどね、でもそうっぽいとは聞いてるかも」
「なんで結婚したんだっけ?お見合い?」
理津子が知る限りでは両親はお見合いで結婚したと聞いている。
とはいえ実家の事もあまり話さない以上、真偽の程は不明だ。
だが父親が料理上手なのは事実だし、母親も育ちがいいのは感じていた。
「親御さんは自分達の事って意外と話さないんかね」
「あまり聞いた事はないかな、でも確実なのは結婚するから退職したって事かも」
「つまりパパさんがママさんと結婚するからホテルの料理人を辞めたって事なん?」
「それは聞いてるよ、それから大衆食堂を始めたんだってさ」
「りっちんのドカ盛り飯は完全に大衆食堂の影響よね」
両親は結婚するにあたって父親はホテルの料理人を退職した。
母親もその結婚にあたり家をほぼ勘当状態なのだとは言っていた。
詳細は分からないものの、事情としては結婚が理由で両親共に実家と疎遠になった事か。
「りっちんが料理好きになったのってパパさんの影響が強いんかしら」
「だと思う、子供の時から家でキッチンに立ってるお父さんの背中はよく見てたし」
「大衆食堂が出来るって事は少なくとも料理の腕前は本物って事だろうしね」
「あとお母さんが作る和菓子が美味しいのは今でも覚えてるかな」
「事情はありそうだけど両親に愛されてるっていうのは感じるわよね」
理津子がお父さんっ子になったのはそんな背中を見て育ったのも大きいのだろう。
料理好きに育ったのはそんな父親の料理を見ていた事もある。
親の背中を見て育つとはそういう事なのかもしれない。
「でもりっちんってギャルを名乗ってても育ちのよさは隠せないよね」
「そうかな?自然に振る舞ってるつもりなんだけど」
「ママさんがお嬢様な家庭の育ちだとしたら、それが身につくのも分かる気がするわよね」
「あまり厳しい教育は受けてなかったんだけど、気がついたら好きになってた感じだし」
「親の仕事を一番近くで見て育ったのが分かる感じに育ったと思うわよ」
理津子の母親はいいところのお嬢様らしいという事は窺い知れる。
理津子もそんな母親の所作を見ていたからなのか、自然と礼儀も身についたのか。
ギャルだと言いつつも育ちのよさを隠せていないとアノットは言う。
「りっちんの両親って本当にいい人なんね、りっちんを見てると分かるわよ」
「まあ習い事とかはさせられてたけど、やりたい事は選ばせてもらえたしね」
「習い事って何やってたん?」
「合気道とバレエ、あとは習字かな」
「意外とやっとるんね」
習い事はその三つだけだが、都会に出るにあたりそれらも辞めたという。
とはいえ習った事は忘れているわけでもないようだ。
護身術は身についているし、これで体も柔らかい、文字も綺麗に書けるとか。
「りっちん、親がいい人過ぎて羨ましいわよ」
「あたしの親は厳しくはなかったけど、決めたのなら簡単に投げ出すなとだけは言ってたし」
「本当にいい人やん」
「それもあるから習い事も都会に出るまではずっと続けてたしね」
「そりゃ育ちがいいのも納得だわ、両親の教育が素晴らしすぎる」
そんな理津子はどちらかといえばパパっ子である。
とはいえ母親の影響も結構受けていたりする。
両親を見て育ち、その親も人がいいというのが伝わってくる。
「さて、んじゃ帰ろうぜぇ」
「だね、今夜は温かいミネストローネでも作ってあげるよ」
「いいねぇ、楽しみにしとるよ」
そんな理津子の両親の話。
親が実家をほぼ勘当状態なため、お爺ちゃんお婆ちゃんみたいなのには憧れたりする。
お爺ちゃんお婆ちゃんからお年玉をもらったみたいな経験も当然ない。
唯一の寂しさはそこにあるのだと理津子は言う。