養殖技術と味
最近は完全に秋の涼しさになった季節。
港町と言うだけあり水揚げされた魚も安く買える。
産地直送の味はやはり鮮度が違うものだ。
そんな中魚も都市部と港町では事情が違うようで。
「りっちんあれで魚捌くの上手いよね」
「あいつ魚の目玉とか全然怖がらないもんな」
「美味しい魚料理もいいよね」
港町だけあり鮮度のいい魚や旬の魚が簡単に手に入る。
理津子も魚料理は子供の頃から好きらしい。
「これはまた美味しそうなマグロステーキね」
「旬の魚もいいけど、こういう魚もいいと思ってね」
「まあ魚は嫌いではないから構わないけどな」
「生姜ソースがよく合うんだよ」
「マグロステーキって安くて美味しい魚のステーキだもんね」
今回作ったのはマグロのステーキ。
こっちの世界では魚を食べるというのは別に普通の事である。
ただ魚の事情は何かとあるようでもある。
「魚も美味いもんよね、りっちんも丁寧に捌けるもんだ」
「そういえばこっちには養殖技術とかないの?」
「養殖?それなら都市部で食べられる魚は大体それだろ」
「そうなの?」
「うん、大都市部とかは内陸に多いから養殖してる事が多いんだよ」
ロザリオが言うには大都市部などで食べられる魚は大体は養殖だという。
その理由は鮮度が落ちるぐらいなら街の中で養殖した方が鮮度がいいからだとか。
そのため内陸にある首都なんかでは魚の養殖も盛んなのだという。
「内陸の首都とかは大体は魚の養殖やっとるよね」
「へぇ、それは知らなかったな」
「内陸だと魚を輸送すると鮮度が落ちるから養殖した方が鮮度のいい魚を食えるしな」
「この世界でも鮮度を完全に保つ技術はないのか」
「一応冷凍して運んだりは出来るけどね、でも生き物だから完全にそのままは難しいかな」
セルベーラ曰く生き物の扱いは機界の技術でも難しいのだという。
だからこそ内陸の大都市部などは鮮度のいい魚を用意するために養殖をしているという。
その一方で港町は水揚げなども盛んなので鮮度のいい魚が食べられるのだ。
「養殖の魚も天然物と全然遜色ないぐらい美味しいわよね」
「へぇ、ここが港町だから養殖物の魚は食べる機会がないだけなのか」
「僕は養殖物の魚も食べた事はあるけど、違いは正直分からなかったな」
「それだけ天然物と味の違いはないのか、少年の味覚がそこまで発達してないのか」
「でもそれぐらい魚の養殖の技術が高いって事なんだよね」
こっちの世界では魚の養殖技術はかなり高いようだ。
水界の魚を多く養殖しているとの事で、その味も折り紙付きだ。
もはや内陸の大都市部では出回る魚の99%は養殖物の魚なのだという。
「でも港町だと天然物が食えるのは強いわな」
「味の違いとかあるのかな」
「特にないと思うぞ、どっちも食べた事があるから分かる」
「まああたしの世界でもよほど舌が肥えてでもないとその辺は分からないしね」
「人なんてそんなものだと思うよ、それが分かる人は珍しいし」
天然物と養殖物の違いは多くの人は分からないとセルベーラは言う。
それだけ技術が高いからなのか、舌が肥えている人が珍しいからなのか。
なんにせよそれだけ養殖物の魚もこの世界では美味しいのだ。
「りっちんは養殖物の魚とか嫌いな人なんかね」
「別にそこまでの嫌悪感や忌避感はないかな、寧ろ獲りすぎで魚が高騰しまくりだし」
「つまりお前の世界だと天然物の魚は乱獲で数が減って高騰してたのか?」
「うん、秋刀魚が一匹うん千円とか珍しくなかったし」
「そんなに高くなるまで獲られてたの?」
理津子の世界では魚はすっかり高級品になってしまっている。
乱獲による数の激減が主なその理由でもある。
庶民の魚と言われた魚ですら高級品なのである。
「でも魚が獲りすぎて数が減ったから高くなったってのはどうなんよ」
「お父さんが言うには30年ぐらい前は寧ろ魚の方が安かったとかは言ってたよ」
「どんだけ獲るつもりなんだ」
「庶民の魚って言われてたイワシとかさんまとかが庶民に買える金額じゃなくなってたし」
「数が減って貴重になったって事でいいのかな」
そうした魚の事情は様々だ。
こっちの世界では内陸にある大都市部では養殖がごく当たり前に行われている。
そのため魚の価格は大きく高騰する事は珍しいのだという。
「うん、美味しかったぜぇ」
「ここは魚が安くて美味しいからいいね、港町万々歳だよ」
「お前は魚が好きなんだな」
「港町のよさを身を以て体験してるのかもね」
理津子も魚は好きな食べ物でもある。
だからこそ港町の素晴らしさを感じてもいる。
魚が美味しいというのは理津子には最高の環境だ。
肉も好きだが魚はもっと好きなのだ。