台風は珍しい
夏も過ぎ去り残暑はありつつも秋に突入した。
そんな一方で屋敷ではたまに自分の世界の情報もチェックしたりしている。
屋敷の中限定とはいえ異世界に繋がるというのは技術の凄さである。
ニュースなどを見ていて気になったものというと。
「ねえ、こっちの世界って台風とか来ないの?たまに大雨はあるけど」
「台風?ハリケーンでなくて?」
「あ、そっか、こっちだと台風じゃなくてハリケーンか」
アノットと買い物帰りに買い食いしつつ気になった話をしてみる。
こっちでは台風ではなくハリケーンと呼ばれるそれだ。
「ここってハリケーンは来ないの?」
「んー、北と西は大体山だし、この近海は水温が割と低いんよね」
「なるほど、水蒸気が発生しにくいのか」
「そそ、それに加えて湿度は内陸に比べれば高いけどそれでもそこまで高くないし」
「確かに港町だから夏でも結構涼しかったな」
ここはハリケーンの条件が揃いにくい環境なのだとアノットは言う。
西から来る雨雲は山の上で消える事が多い。
またハリケーンの条件になりやすい水蒸気や海水温がそれに満たない事も多いとか。
「つまり夏でも思ってるより涼しいのがハリケーンが起きにくい理由なのか」
「全く来ないってわけでもないけどね、ただ発生しにくいってだけよ」
「西から来ると山、東から来ると気温や海水温が思ってるより低いか」
「でも歴史上だと村一つ壊滅させるレベルのハリケーンが来た事もあるっぽいね」
「村一つって普通にとんでもない破壊力…」
アノット曰くこの世界のハリケーンは雨よりも風が強い事が多いという。
強い雨以上の強い風で石の建物は削られ、木の建物は吹き飛ばされる。
そのためドワーフと技術協力をして強風でも耐えられる金属の建材を開発したという。
「風の方が雨より強い傾向にあるっていうのはなかなかに怖いね」
「ハリケーンが来た時も水害は思ってるよりも深刻でない事は多いっぽいしね」
「その一方で防風による建物の被害が多かったのか」
「今でこそ建物も頑丈になったけど、それより前だと西側の国とかは凄かったみたいね」
「この街というか国って地理的にいいのか悪いのかなんとも言いにくいね」
ハリケーンがあまり来ないとはいえ全く来ないわけでない。
来る時は来るのでそれに対して備えをしている家もそれなりにある。
アノットが言うように雨より風の被害が強いのがこの国のハリケーンだとも。
「でも風の被害か、それこそ昔は相当吹き飛ばされたりしたんでしょ」
「まあ時代が時代だからね、他種族との交流が始まった事は確実に大きいわよ」
「その影響で建物の強度が凄く上がったって事だね」
「そゆこと、この世界もそうした他種族と上手く付き合ってるって事よね」
「ハリケーンへの備えとかもそうした技術を上手く使ってるって事なんだなぁ」
ハリケーンの被害に関しては西側の国はもっと酷いとアノットは言う。
この国は割と東側にあるのでハリケーンは来る前に消える事も多いと。
そうした理由もあり全く来ないわけではないが、あまり来ないのだと。
「だけど対策はしておくに限るって事なのかな」
「そりゃ何もしないよりはしてる方がずっといいからね」
「あたしの住んでた国は自然災害大国だから、防災の大切さは知ってるし」
「りっちんの国って自然災害が凄いとは前も言っとったよね」
「うん、噴火に地震、台風に豪雪とかもあるし」
そんな自然災害大国で育った身としては防災の大切さはよく身に沁みている。
この国は自然災害が少ないのはいいが、それでも対策はしてある。
備えあれば憂いなしなのは異世界でも変わらないのだろう。
「でもハリケーンがあまり来ない理由ってきちんとあったんだね」
「山があるってのは大きいわよね」
「山で雨雲が消える、そういう事なんだよね」
「そゆこと、山をなかなか越えてこないって事よ」
「ハリケーンも雨より風の被害が強いっていうのも納得かも」
ハリケーンの条件は様々である。
とはいえこの国は地理や条件的にそれが起きにくいという。
ただし来る時は来るので用心はしておくに限るが。
「さて、それじゃ帰ろうか」
「美味い飯期待しとるぜ」
「アノットも作るの手伝ってよね」
そんなこの国における自然災害の事情。
寧ろハリケーンより海で起こる水難事故の問題の方があるという。
技術が発達しても起きるものは起きるのだ。
自然災害との付き合いは大切でもある。




