焼きそば過激派
夏の暑さもすっかり落ち着いた様子の港町。
海風もあり猛暑の気温は完全に過ぎ去った様子。
元々涼しい方の土地ではあるので猛暑でも気温はそこまで高くならない。
そもそも猛暑の温度の基準が理津子の世界とは違うのもある。
「すっかり涼しくなったねぇ」
「港町だから海風のおかげで内陸に比べると全然涼しいからな」
「リツコの世界の夏は恐ろしく暑いって聞いてるよね」
そんな落ち着いた季節に出されたのはソース焼きそば。
理津子には焼きそばにはこだわりがあるようで。
「ソースのいい香りだねぇ」
「ソース焼きそばは割とお手軽で食べごたえもあるしね」
「でもお前の場合は麺は自作なんだから、お手軽感はないな」
「ソースなんかも既製品だけど好みの味はチョイスしてるしね」
「何が合うとかも考えてるんだよね」
そんな理津子も焼きそばは子供の頃から好きな料理だ。
ラーメンやスパゲティよりも焼きそばが好きだった。
土曜日のお昼ごはんの味みたいなのが理津子の焼きそばの思い出である。
「にしてもずいぶんとドロッドロなソースで作ったね、色が黒い」
「気分転換だよ、たまにこういうジャンク感のある焼きそばが食べたくなるから」
「普段はもう少し普通の焼きそばを作るのにな」
「ただこれは流石に焼きそばを食べてるというよりソースを食べてる感じだね」
「失敗作ではないけど、定番にはしない感じの味だよね」
気分転換で超濃厚ソースの焼きそばを作った理津子。
不味くはないが定番の味には出来ないという評価に落ち着いた模様。
やはり焼きそばはいつもの感じが一番落ち着くようだ。
「そういやりっちんの作る焼きそばって麺が多いよね」
「えっ？焼きそばって麺を食べるものでしょ？」
「確かに野菜や肉さえも意外と少ないな」
「あたしは焼きそばは麺を食べたいのであって野菜や肉を食べたいんじゃないからね」
「そこが焼きそばへのこだわりなのかな」
理津子曰く焼きそばは麺を食べるものだという。
なので野菜などでかさ増ししたような焼きそばが許せないらしい。
麺が少ない焼きそばは焼きそばではなく麺入りの野菜炒めと認識しているとか。
「りっちんってたまに過激派発言するよね」
「あたしは焼きそばに野菜なんて求めてないからね」
「お前って変なところにこだわるよな」
「焼きそばを野菜でかさ増ししてるやつとかあたしは絶許だからね」
「なかなかの過激派だね」
理津子にとって野菜でかさ増しした焼きそばは悪そのものという認識の様子。
なのでそういう料理にも嫌悪感を持っているようだ。
料理が好きな人だからこその考え方なのかもしれない。
「でも麺が多い焼きそばが好きとは、りっちんらしい過激派思考だよね」
「縁日の屋台の焼きそばとか基本的に野菜ばっかりでがっかりした経験とかあるし」
「そういう経験がお前を焼きそば過激派に染め上げたんだな」
「だから野菜も肉も一切入れない素焼きそばとか作ったりもしてたからね」
「どれだけ焼きそばの麺が好きなんだろうね、リツコは」
理津子はそれだけ焼きそばの麺が好きという事のようだ。
だからこそお祭りや縁日の屋台の焼きそばはがっかりした記憶があるという。
野菜でかさ増しした焼きそば滅ぶべし、慈悲はない。
「にしても焼きそばってソースがここまで濃厚だと完全にジャンクだね」
「うん、これは完全にソースを食べてる、不味くはないけどなんか違う」
「試しに作ってみたのはいいがなんか違うって事か」
「たまに食べるのはいいけど、普段はいつもの焼きそばにするよ」
「そこは一つ勉強になったかな」
ソースが濃すぎる焼きそばは焼きそばではなくソースを食べている。
なのでたまに作るのはいいが定番にはなり得ない。
理津子はそう認識したようで、次からはまたいつもの焼きそばに戻りそうである。
「はぁ、まあこれはこれで美味かったからいいぜぇ」
「それはどうもね、でも普段から食べるにはくどいかな」
「確かに味はくどいな、まあ不味い味ではなかったけど」
「やっぱり普通の味が一番なのかもね」
そんな焼きそばに対するこだわりがある様子の理津子。
野菜でかさ増しした焼きそばは憎むべき悪である。
焼きそばに対する過激派思考は焼きそばが好きだからでもある。
野菜でかさ増しした焼きそば滅ぶべし、慈悲はない。
