血を抜いてきた
すっかり夏の陽気になったが海風のおかげで涼しいこの街。
そんな中理津子はレミリアに呼び出されレミリアの会社に来ている。
なんのために呼び出されたかと言えば、理由は尤もな理由。
別に血を吸われるわけではなく。
「終わりかな」
「ええ、ご協力どうも」
「なんで今になってあたしの血を採取したいなんて言ってきたのさ」
レミリアの会社に呼び出された理由は採血させろという事。
採血ぐらいならいいかという事で、血を提供したわけで。
「それにしてもなんで今になって採血なの」
「そうすればあなたが何かしらの大きな病気になった時に血清を作れるからよ」
「血清って、まあ確かに異世界人だから理由は分かったけど」
「血清のついでにあなたの血液から珍しい病原菌とか出てくるかもしれないし」
「製薬会社の社長に言われると割と冗談に聞こえないから困るんだけどね」
まあそんな理由で理津子の血を抜かせてくれという事だったらしい。
理由が理由なので素直に従ったというのもある。
それに薬を作れるというのはメリットでしかないというのもある。
「でもレミリアは吸血鬼だから病気とかにはならないんだっけ」
「そうよ、まあ定期的に屋敷のメイドの血を吸ってるけど」
「吸血鬼って人間が変異した種族じゃないの?噛まれると吸血鬼になるみたいな」
「それは間違いではないわ、でも吸血鬼化するウイルスはある程度制御出来るのよ」
「つまり噛んだ相手が無差別に変異するみたいな事はないのか」
レミリア曰く吸血鬼という種族は噛まれた相手がウイルス感染を起こし生まれるという。
だが噛んだ相手が全て吸血鬼化するわけではなく、感染のコントロールは出来るとか。
つまりは吸血鬼化させるという行為は自分の眷属を作るための行為なのだと。
「レミリアは製薬会社やってるけど、実際効く薬とか作ってるんだよね?」
「当然でしょ、有名な病院なんかにも信用されてるのよ」
「へぇ、それは凄いね」
「それに薬っていうのは毒と紙一重なのよ、世の中の薬の多くは毒でもあるの」
「それはあたしも知ってる、睡眠薬を大量に服薬して自殺するみたいな話でしょ」
薬と毒は紙一重であり表裏一体の存在。
薬も多量なら毒になり、毒も少量なら薬になるという事だ。
なので世の中に存在する薬は全て等しく毒でもある、適切な量で使うから薬なのだと。
「薬も多くの病気では特効薬は存在しないんだよね、そうでしょ」
「そうね、それに特効薬なんてものが生まれたら薬学の世界はひっくり返るわよ」
「あと感染症を撲滅したのは薬ではなくワクチン、そんな話もあったりする?」
「まああるわよね、そういう医学の論文は私もたくさん読んでいるもの」
「レミリアが製薬会社やってるって事は魔界は薬学が進んでる世界なのかな」
レミリアが言うには魔界は環境のおかげで薬の需要が大きいのだと。
それにより薬学はもちろん、医者も魔族の人が実は多いらしい。
魔族という種族は医療や薬学に強い人が多いとのこと。
「でもなんで魔界は薬学が盛んなの?」
「魔界は今でこそ発展したけど、昔はそれこそ荒廃していたものよ」
「つまりそれによる疫病や他にも病気が多かったのかな」
「ええ、だから魔界では薬学や医療が盛んになってそれらに打ち勝った歴史があるの」
「魔界の事情はなんとなく見えるけど、つまり衛生環境の話になるのかな」
昔の魔界は今とは比べ物にならないぐらい荒廃していたという。
それにより疫病や他にも様々な病気が蔓延していた。
魔界における薬学や医療の歴史は病気との戦いの歴史でもあるのだ。
「でもそういう歴史ってつまりはきちんと戦ったって事なんだよね」
「今の魔界は本当に清潔な環境なったと言えるわよ」
「清潔な環境か、でも病気って結局は対策が大きいところはあるよね」
「そうね、かかってから治すのではなく感染する事を防いだ方が圧倒的に少なくなるわ」
「あたしの世界だと手洗いとうがいとマスクで感染症は凄く減るっていうのはあるし」
感染症は手洗いうがいマスクが大きな効果がある。
感染予防は個人で出来る最大の対策なのだ。
レミリアも医者や薬の需要が減るというのは民の意識の結果なのだとも考える。
「さて、そろそろ帰らなきゃ」
「薬が必要ならいつでも言いなさい、適切な価格で売ってあげるわよ」
「その時は頼もうかな、それじゃね」
「研究はしておくに限るものよね、協力には感謝しなきゃ」
そんな理由もあり血を抜いてもらった。
魔界の歴史を聞いて意外にも感じたのはある。
荒廃していた頃は様々な病気が蔓延していたという魔界。
魔界は意識の変化と技術の進歩により大きく変わったのだと。




