消えないデータが羨ましい
こっちの世界には梅雨なんてものはなく、夏晴れが続く。
たまに雨も降るが、基本的には夏の晴れ空が多い。
異世界の気象事情は結構極端だったりするとロザリオから聞いている。
他国の情報はあまり聞かないという事もあるのだが。
「しかし港町ってだけであたしの世界の夏とは違いすぎる」
「あら、また会いましたね」
「サインじゃない、またオフか何かかな」
また甘いものの店の近くでサインに遭遇する。
研究の合間の休憩は決まって甘いものかラーメンらしい。
「それにしてもこういうお店ではよく会うね」
「甘いものに引き寄せられるので、糖分は活力ですよ」
「その辺は頭を使う人って感じだなぁ、頭脳労働をする人って糖分が好きだよね」
「それで自分の世界との通信のシステムは問題なく動いていますか?」
「あ、うん、特には問題ないよ」
サインの協力で設置したシステムは特に問題ない。
そんな中サインは理津子のスマホにも興味を示している。
こっちの世界ではスマホは便利すぎるがゆえに衰退した通信端末なのだ。
「ただ通信で結構容量使うシステムだから、定期的にデータ空けないとだけど」
「そういえばリツコさんの世界だと基本的に容量は決まっているんでしたか」
「うん、あとこの手のやつの保存用のカードは多くはフラッシュメモリなのもあるしね」
「結構発展してる世界のイメージなのにフラッシュメモリなんですか」
「こっちだと機界の技術のお陰でパソコンでも容量無限とか普通だから凄いよね」
サイン曰く機界ではフラッシュメモリなんてものは化石の技術だという。
アンドロイドやロボットが普通の世界なので、容量無限は当たり前の技術だ。
それに加え経年劣化もデータの消失もしない記録媒体が当たり前に使われているとか。
「異種族の異世界っていうだけあって技術の事は何事も勉強だよ」
「ちなみにそっちだと外部の記録媒体はどの程度が普通なんですか」
「パソコンなんかだとテラは普通になったかな、でもゲーム機とかは多くても256とか」
「技術は進歩しても記録媒体の容量は思ったより進化してませんね」
「あたしからしたらパソコン黎明期から見たら凄く多くなったイメージなんだけどなぁ」
理津子の世界での大容量も機界から見たらいつの時代の話だとなる。
それだけ機界は理津子から見たら超未来の世界なのだ。
なのでデータが消えない記録媒体も容量無限の記録媒体も珍しくもないのだ。
「機界の記録媒体って凄いよねぇ、あたしの世界でも容量無限はたまに見たけど」
「それでその256というのは当然テラとかですよね?」
「そう来るか…その256はギガだよ、ゲーム機なんかは64とかが上限とかもあったね」
「それだけ多機能なスマホが作れるのに、容量の大きさの進化が全然なんですね」
「容量無限が当たり前って言うけど、容量限界があった時はどの程度だったの」
サイン曰く無限になる前、それは今から100年以上昔の話らしい。
なので当時は当然サインも生まれていない。
ただエクサバイトはとっくに突破したとだけは聞いているらしい。
「機界が未来すぎるのは分かるけど、昔の話も聴きたいしね」
「そうですね、100年以上昔にはエクサバイトは超えていたと聞いています」
「エクサバイト…確か10億ギガか、100年以上昔でそれとかおかしい」
「少なくとも機界ではそれが歴史です、ギガバイトとか創世期でも珍しかったかと」
「機界の凄さしか伝わってこないね、流石は超未来の世界だ」
機界ではとっくに消えなくて無限に使える記録媒体が普通に出回っている。
元々機界はそうしたものを研究開発する事は創世期からやってきた世界でもある。
なのでそれがこちらの世界の機械類に使われる事も普通なのだ。
「そういう技術が当たり前なのは羨ましいよ、本当に」
「創世期あたりはフラッシュメモリだったと聞いていますよ、黎明期でもあるので」
「機界の歴史を考えるとフラッシュメモリですら創世期なのか」
「はい、まあ機界のエネルギーはほぼ電気なので、通電せずとも稼働出来ないとですから」
「それって外部バッテリーとか電気に代わる代替エネルギーみたいな?」
サインが研究しているのもそんな代替エネルギーではある。
とはいえ機界全体を賄う電力は全然余裕で確保出来ている。
消えなくて通電しなくても問題ない記録媒体が生まれるのは必然だったのか。
「さて、そろそろ帰らなきゃ」
「またそちらの世界の話でも聞かせてくださいね」
「うん、それじゃね」
「発展した世界でも進歩の具合はまちまちみたいですね」
こっちの世界では機界のおかげで消えない記録媒体はごく普通のものだ。
通電しなくても消えないというのは全然珍しくもない。
容量は無限なのも普通だし、物理的に破壊されなければ半永久的に残り続ける。
デジタルの進化の極地のような世界と技術を機界は100年は前に確立しているのだ。




