平等があるとするならば
春の陽気から夏の暑さに変わるまでまだ少しある季節。
そんな中ロザリオは相変わらず出不精な生活を送っている。
とはいえきちんと運動などはさせているので抜かりはない。
そのロザリオは新しく購入した本を読んでいるようで。
「少年、もう遅いんだから早くに寝ないと」
「ああ、キリがいいところまで読んだら寝るから」
「そうやって遅くまで起きてるんだから、せめて日付が変わる前には寝なよ」
そんな中ロザリオが理津子に一つ質問する。
それはどこか哲学的なものでもあった。
「なあ、お前はこの世の中に平等ってあると思うか」
「平等?またずいぶんな事を聞くね」
「別に難しく考えなくてもいいぞ」
「そうだねぇ…平等があるとしたらそれは死、じゃないかな」
「死ってまたずいぶんな答えを出してきたな」
理津子が思う平等、それは死なのだという。
どんな命もいつかは死んでいく、偉大な命、小さな命、生き物から植物まで。
人間が恐れるのは死であり老化なのだとも。
「でもなんで死が平等だなんて思うんだ?」
「長命なエルフや竜族だっていつかは死ぬ、植物だって生きてる以上いつかは死ぬしね」
「それはそうだけど、僕は死ぬという事は平等でも死が平等とはそこまで思わないな」
「なんでかな?」
「それならなんで悪人は長生きするんだ?善人は多くが早死するんだ?」
ロザリオのぶつけてきた疑問。
死が平等と言うのなら悪人は長生きするのに善人は早くに亡くなるという事。
理津子なりのそれへの答えとは。
「それについて答えられるのか?」
「あたしの世界だとあの世の神様も悪人に来て欲しくないから長生きだって言われるね」
「お前、本当に身も蓋もない事を返すな、なんか虚しくなる」
「でもあたしは死は平等だと思うよ、だから老化を怖がるっていうのもセットでね」
「老化を怖がる…確かに世界の独裁者なんかだって不老不死でも不死身でもないもんな」
結局は全ての命はその長さが違うだけでいつかは死ぬのだというだけのこと。
ロザリオも世の中に平等があるとしたらなんなのかという事は考えている。
理津子もこの世界に来てそれを改めて再認識したようでもある。
「でも種族的な命の長さはともかく、善悪的な長生き短命は納得しにくいな」
「それはあたしも同じ気持ちだから、そこだけは気が合うのかもね」
「ただ死が平等だとしても、それがどういう意味なのかだよな」
「寿命を全う出来る保証もないしね」
「僕の両親がそうだったのかもしれないと思うとなんとも言えない気持ちになるな」
ロザリオはテロで両親を亡くしている。
それも旅行先で巻き込まれて亡くなるという不幸でもあった。
死は平等であり善人は早死して悪人は長生きする、そんな理不尽さを感じているのだろう。
「なんにせよお前って意外と哲学的な事が言えるんだな」
「頭はそんないい方ではないけど、勉強は嫌いでもないしね」
「ただ死が平等っていうのは同時に世の中の不条理も感じるな」
「全ての命はいつかは死ぬ、生きてるっていうのは緩やかに死に向かってるって事だよ」
「ただ寿命を考えるとエルフは人間で言う六世代ぐらい生きるからな」
そういう寿命の話はどうしようもないので仕方ない。
とはいえ死こそが完全な平等というその考え。
その一方で命の時間の違いもまだ世の中にはあるのだろう。
「ただ死が平等だとしても不老不死とかはどうなるんだ?」
「少年は不老不死と不死身の違いって分かる?」
「同じ意味なんじゃないのか?どっちも死ななくなるっていう」
「簡単に言うと不老不死は外的要因で死ぬ、不死身はそれこそ死ななくなるって感じかな」
「そういう違いだったのか、大きな違いはよく分かってなかったけど」
そんな不老不死と不死身の違いはそんなところである。
とはいえロザリオが平等について聞いてきたのも多少思うところはあるのだろう。
平等を謳っても結局は平等になる事はないのだと。
「でもお前の言ってくれた事はたぶんその通りなんだろうな」
「平等って難しいんだよ、その一方で公平とか対等っていうのもあるしね」
「公平、対等か」
「なんにせよ理想っていうのは現実にしてはじめて意味があるって事だよ」
「そうだな、それはあると思う」
本を読んで思った事はある様子のロザリオ。
平等とは難しいテーマでもある。
だからこそ答えはたぶんないのだろう。
「それじゃあたしは寝るからね、少年も早く寝なよ」
「ああ、もう少ししたら寝るよ」
「それじゃおやすみ」
そんなロザリオは日付が変わるギリギリには寝た様子。
本を読むというのはあっという間に時間が溶けていく。
それは本好きの宿命のようなものでもあるのか。
ロザリオも本屋に行く時だけは積極的に外に出るのだ。