一から作るチョコ
こっちの世界では自分の世界にあるようなイベントや休日はない。
とはいえそうしたイベントなんかで食べるものは作ったりする理津子。
自分の世界で今はバレンタインだという事を思い出した。
それにより店で買ってきたものはチョコレートの材料だった。
「甘い匂いがするねぇ」
「あいつ、カカオバターとかココアパウダーとか牛乳とか買ってきてたな」
「チョコレートでも作ってるみたいだね」
そんなバレンタインなので作ったもの。
ただチョコレートを作ってもつまらないので、少し凝ったものを作ったようで。
「りっちん、洋菓子苦手って言ってたのにここまで上達するの早すぎん?」
「まあ数はこなしてきたからね、生チョコレートとかチョコレートタルト作ったよ」
「生チョコレートとかチョコレートタルトって、凝りすぎだろ」
「チョコレートタルトはビスケットも作ってスターゲイジーパイっぽくしたよ」
「スターゲイジーパイ?まあいいや、食べようよ」
スターゲイジーパイ、どこぞの国にある魚のパイの事だ。
ビスケットで魚っぽいものを作ってそれをタルトに使ってある。
お菓子で作ったスターゲイジーパイである。
「んま、本当に上達したねぇ」
「うん、バレンタインだしせっかくだしチョコレートを作ろうと思ってね」
「バレンタインってなんだ」
「分かりやすく言うと女性が男性にチョコをあげる日かな」
「そういうイベントなの?」
バレンタインは女性から男性に渡すもの。
というのは昔の話で、今は友チョコやら自分へのご褒美やらなんでもある。
なので異性に渡すという概念は完全に瓦解している。
「でもなして女性から男性にチョコレートをあげるん?」
「お菓子会社がチョコレートを売るために始めた日だから、要するにチョコを売る日だね」
「お菓子会社も逞しいな、そういうイベントがあった方が売れるのかは知らないけど」
「とはいえ今は異性に渡すでもなく友人に渡したり自分へのご褒美に買ったりする事も多いかな」
「つまり渡す範囲は大きく広がったって事かな」
それもあり昔に比べるとチョコレートは割と売れるとも言える。
異性限定という概念が取り払われた事で友人や自分にチョコを買う人は確実に増えた。
少しお高いチョコレートも売れるし、手作り至上主義もそうした関係なら気にしなくていい。
「でも友人とか自分へのご褒美もありなら昔より売れるんでない?」
「実際そうみたいだね、それなら手作りする必要もそこまでなくなるし」
「手作りってお前みたいに粉や液体から作るのか?」
「市販のチョコを溶かして固め直すのが大多数かな、手作りって言うかは別として」
「それは手作りじゃなくて作り直しって言うんじゃないの?」
それを手作りと言うかはまた別の話である。
そもそも理津子のように一から作る人はパティシエと言ってもいい。
普通の人はそっちの方が楽だし、それでいいという事でもある。
「まあカカオバターとかから作るのはガチ勢って事でいいんかね」
「それはそうだけどね、そこまでやるのはそれこそパティシエだし材料もあるしね」
「チョコレートの材料ってそんな手に入れるのは難しくないだろ」
「あたしは基本的に買ったものを自分で食べてたから、本格的に作ってのは今回が初だよ」
「その割にここまで作れるのはアノットの教え方が上手かったのかな」
理津子は基本的に自分で買って自分で食べていた人らしい。
男に興味があったという事もないようで、視線は向いていても興味は示さなかったらしい。
なのでこれで彼氏いない暦=年齢の女である
「でも少しお高いチョコを自分へのご褒美に買うのはいいかも」
「実際チョコが売れるってバレたのか三ツ星パティシエがチョコを売り始めたらしいし」
「三ツ星っていうのは外部からの評価みたいなものか?」
「うん、要するに正真正銘本物のお菓子職人が作ったチョコが出てきたみたい」
「本物のプロのお菓子職人が作ったチョコでも売れるんだろうね、そういう日なら」
バレンタインに三ツ星パティシエが殴り込みをかけてきたという話。
それすなわちプロにバレンタインはチョコが売れると知られたという事である。
壁サークルの三ツ星パティシエがバレンタインにログインしましたという事だ。
「ふぅ、んまかったぜぇ」
「それはよかった、チョコを一から作ったのははじめてだったけど、一安心かな」
「生チョコレートも美味しかったな、はじめて食べた味だった」
「チョコレートの日っていうのも悪くないかもね」
そんな割と好評だった理津子のチョコレート。
スターゲイジーパイ風のチョコは渾身の力作である。
シャレオツなものを作るのもそういうユーモアセンスだ。
チョコレート?自分で食べてもいいではないか。