ご主人様は吸血鬼
野良メイドことアノットを世話していたら来客が来た様子。
その客人はレミリアと名乗った。
それに対してアノットが分りやすい反応を示す。
とりあえず家に入れる事にした。
「こっちです、どうぞ」
「お邪魔するわね」
「うわ、美人な人だな」
レミリアと名乗るその客人は美しい女性だった。
部屋の中を見渡してその名を呼ぶ。
「アノット、そこに隠れてるのは分かっているのよ」
「なぜバレたし!」
「えっと、アノットのご主人様でいいんだよね?」
「そうよ、レミリア=アレグリオ=ドラクリウス、吸血鬼をしてるわ」
「吸血鬼なのか、それでアノットを迎えに来たのか」
レミリアも処遇については考えている様子。
だがその前に理津子は吸血鬼と聞いて気になっている事があった。
「あの、吸血鬼なのにこの晴れてる時間に?日光で灰になるとかないの?」
「何を言ってるの?日光で灰になるとかどこの世界の話よ」
「それじゃあにんにくが苦手とか、銀の弾丸で死ぬとか胸に杭を打たれて死ぬとか」
「にんにくは寧ろ好きよ、あと銀の弾丸とか杭とか死なないけどかすり傷にはなるわね」
「えぇ~、つまりそれって無敵…」
どうやらこの世界の吸血鬼は理津子の世界で言われてるものは一切平気らしい。
日光もにんにくも銀の弾丸も杭もそんなものは効かないという事のようだ。
「理津子の世界の吸血鬼は貧弱すぎるだろ、そんなので死ぬほど弱いのか」
「そういうものだとは思うけど、それよりアノットはどうするの?」
「そうねぇ、謝るなら許すつもりだけど」
「だが断る!あたしは甘いものがないと死ぬ生き物だからね!」
「だそうですけど」
アノットの甘いものへの執着は本物の様子。
レミリアもどうするか考えている様子。
理津子とロザリオもどうなるのかとそれを見守る。
「ならこの屋敷で引き取ってもらえる?確かに有能だけど、有能なのは他にもいるしね」
「…つまり解雇?」
「お給料は甘いものでも与えておけばいいわ、餌で釣れば働くから」
「あたしはそんな軽い女じゃねーし!」
「引き取るのはいいとしても、お給料はお菓子でいいって事?」
確かにアノットは優秀なメイドではある。
とはいえ扱いについては困りそうなタイプなのは理津子もロザリオも感じていた。
レミリアは謝れば許すと言うし、謝らないなら解雇すると言っている。
とはいえアノットにはその気はない様子。
「どうするの、今決めなさい」
「禁止令は解いてくれる?」
「勝手に食べないなら解いてあげるわ」
「なら解雇でケッコーです、そんじゃよろしくな!少年!」
「お前、本当に分かりやすい奴だな」
そんな即決によりアノットはこの家で引き取る事になった。
レミリアが言うにはお菓子を与えておけば働くという。
なんか動物を飼うような扱いでいいのかと思うのもある。
一応理津子にもお給料は払っているし、それで手を打つ事にした。
「そうだ、これは私の家と個人の連絡先よ、何かあったら頼っていいわよ」
「あ、どうも、っていうかレミリアって何してる人なの?」
「これでもそれなりに有名な製薬会社の社長なのよ」
「マジか、薬を扱ってるなんて凄いな」
「様々な種族が行き交う世界だもの、そういう多様な種族に対応する薬を扱ってるの」
どうやら思っているよりも凄い人だった様子。
連絡先は一応受け取っておく事にした。
「それじゃ私は仕事に戻るわね、追加のメイドを探さなきゃ」
「…この世界の吸血鬼って凄いんだなぁ、あたしの世界のそれが弱いだけ?」
「そんじゃ世話になるぜ、よろしくな少年!」
「お前は少しは悪びれろ」
「まあまあ、このアノットさんは報酬さえあれば働いてやるぜよ」
調子のいい人である。
ただ有能なのは確かなのだろうとは思う。
ロザリオは元々外に出たがらない事もあり、理津子も関係してる縁なのか。
「とりあえず仕事教えて」
「ならあたしが教えるよ、いいよね」
「好きにしてくれ」
「それじゃついてきて」
「はーい」
騒がしいままアノットを押し付けられた気分のロザリオ。
とはいえ有能なのは確かなので、報酬さえ出せば働いてはくれると思っている。
理津子は活動的な一方で、アノットは怠け癖があるクセの強い相手。
ロザリオの心労は確実に増えそうである。




