とろけるりんご
クリスマスの料理を考えつつ調達する食材も考える。
そんな中息抜きにちょっとしたものを作る事にした。
何を作るかと言えば安くいいりんごが手に入ったとのこと。
なのでここは美味しいあれを作る事に。
「りっちん、なんか息抜きに作ってんのかね」
「この匂いはシナモンの匂いか?」
「りんごを買ってきてたから、アップルパイでも作ってるのかな」
そんな作っていたものは焼きりんごである。
はちみつとシナモンで焼き上げた甘くとろける焼きりんごだ。
「シナモンの匂いがしてたからアップルパイかと思ってたけど」
「まるごと焼きりんごだよ、りんごが安く手に入ったからね」
「匂いからしてはちみつとシナモンか?」
「うん、焼きりんごにははちみつとシナモンを使うのがあたし流だよ」
「それじゃ食べようよ」
しっかりと焼き上げた焼きりんご。
ナイフを入れれば簡単に切れる程度にはなっている。
とはいえこっちのりんごは自分の世界に比べると甘さは控えめらしい。
「んま、こいつぁ美味しいねぇ、柔らかくなってるしめっちゃ甘くて進むわ」
「美味しいんだけど、あたしの世界のりんごに比べると蜜が足りないかなぁ」
「そういえばお前の世界だと野菜も果物も凄く甘いって言ってたな」
「うん、りんごも蜜がたっぷりで凄く甘いんだよ」
「そういうのは世界の違いを感じさせるよね」
実際こっちの世界の野菜も果物も自分の世界のものに比べると甘くはない。
とはいえ理津子曰く甘すぎるものはそこまで好みでもないという。
甘いものが苦手でも嫌いでもないが、甘ければいいという考え方は嫌いらしい。
「りっちんって普通に甘党に寄ってる程度には甘いものが好きだよね?」
「好きだよ、でも甘ければ美味しいっていうのには賛同しかねるかなぁ」
「料理の味付けとか意外といろいろやるもんな」
「うん、だから甘いものが美味しいっていう考え方は好かないかも」
「いろんな料理を作るのが好きだからこその味覚なのかもね」
そういう考えは父親譲りでもあるのかもしれない。
プロの料理人だったという事からそういう考え方を持つに至ったのだろう。
それと似た理由で柔らかい食べ物が美味しいという考えも好まないのだとか。
「りっちんって割と料理に関しては柔軟だよね、美味しいものとか食ってたん?」
「美味しいものというか、甘くなくても美味しいものとか柔らかくない美味しいものとか」
「要するに甘いものが美味しい信仰と柔らかいものが美味しい信仰に反発してるのか」
「そんなところかな、あたしは好き嫌いはそこまでないけどそういう考え方は好かないよ」
「確かに甘くなくても柔らかくなくても美味しいものは多いもんね」
理津子もそういう信仰的なところには違和感もあるのだろう。
それでも美味しいものを作り出せるのは父親の背中を見て育った事もあるのだろう。
美味しいとはなんたるかをある程度見つけているのだと思われる。
「確かにこの焼きりんごは美味しいけど、りっちんの世界のりんごで作ったらどうなんかね」
「焼きりんごに限らずだけど、その料理とかお菓子に向いてる品種があるんだよね」
「品種っていうと果物とか野菜の名前みたいなやつの事か?」
「実際あたしの国で作ってるりんごはジャムに向かないってお父さんが言ってたよ」
「へぇ、それはなんか興味深い話だね」
理津子の父親曰く国産のりんごはりんごジャムに向かないという。
理津子も試しに作ってみた事はあるが、確かに売っているものに比べると美味しくなかった。
そうした品種や産地によって特定の料理やお菓子への向き不向きがあると知ったという。
「でも品種や産地によって向き不向きがあるって面白いねぇ」
「そうなんだよね、フライドポテトなんかも外国のじゃがいもの方が美味しかったし」
「そういうところは料理が生まれた国なんかも関係してるのかもな」
「そうだね、だから国産の食材を使うのが必ずしも美味しいとは限らないんだよ」
「料理が生まれた国の小麦粉とかじゃがいもとかそういうのもあるのかもね」
料理が生まれた国で作られている食材という補正のようなもの。
なので必ずしも国産で作れば美味しくなるとは限らないという事。
そこで思い出されるのが某牛丼チェーンの牛丼、あれは外国産だからこその味だと。
「はぁ~、焼きりんご美味しかったぜぇ」
「うん、それじゃまたクリスマスの事考えなきゃね」
「こっちにはない風習なのによくやるよな」
「美味しいものが食べられるならいいけどね」
そんな焼きりんごは結構好評であった。
とはいえこっちの世界だと品種のような概念は薄いのが悩ましい。
ただそれでもどこ産みたいな概念はあるので、産地という概念は強い。
品種と産地、この世界ではそうした考え方にたまにぶつかる。




