焼きおにぎりの味
こっちの世界も少しずつ寒くなり始めた季節。
だからなのか温かい食事が最近はすっかり増えてきた。
そんな中簡単に済ませる時もあればしっかり作る時もある。
好みはリクエストなどを聞いてそれに合わせたりもするようで。
「手軽な料理でもを抜かないのはりっちんの偉さよね」
「おにぎりとかパンを作るにも本格的にやってくるもんな」
「でも美味しさを追求したおにぎりとか美味しいよね」
そんな今回の食事は何やらいい匂いが。
そういえば七輪を買ってきていたのをロザリオが思い出す。
「なんかいい匂いがすんねぇ」
「せっかく七輪を買ったから焼きおにぎりをやってみようと思ってね」
「焼きおにぎりか、おにぎりをそうやって作ったりもするんだな」
「味噌と醤油で作ったから好きな方を食べていいよ」
「いい匂い、それじゃ食べようか」
焼きおにぎりの味は醤油と味噌。
定番ではあるが、人によって好みがありそうなやつ。
ちなみに理津子は醤油派なのだとか。
「んまいねぇ、にしてもお米って意外といろいろ使えるもんなのね」
「あたしは米食文化の国の人間だからね、パンよりご飯を食べる事が多かったし」
「だから米を使った料理のレパートリーも豊富って事か」
「そうだね、中華風の米料理とか洋風の米料理なんかも得意だよ」
「この国はお米も食べるけど、基本的にはパン食だよね」
この国、帝国ではパン食の地域と米食の地域があるのだとか。
ここの港町は名物がイワシカレーなので、米食の傾向にある。
一方で首都や北側の地域などはパン食の傾向にあるのだと。
「この国って首都がパン食だからね、パンの方がよく食べられてはいるんよ」
「ふーん、ここの街だとお米の方が多いからそういうのは知らなかったな」
「首都があるのは内陸の方だからな、ここは港町だから沿岸地域だぞ」
「ついでに言えば他国との交易や貿易の玄関口だもんね」
「だから食文化的にも国の中では珍しくいろいろ混ざってる場所なんだよ」
港町であり交易や貿易の玄関口でもある。
それが理由なのか、ここは帝国の中でも特に様々な文化が混在する地域だ。
人界の他国だけでなく、他の世界との交易や貿易の拠点でもある。
「港町って外国の船や他の世界の人の船もよく出入りしている場所だしねぇ」
「商店でも外国の食べ物とかをよく見る理由だね、ワールドワイドって感じ」
「実際商人が買い付けに来たりもするからな、航空便のターミナルからも割と近いし」
「そういうのは輸送手段があるよね、自動車も普通にあるし」
「大きな飛行機みたいなのは無理だけど、個人用の飛行機とか専用のターミナルはあるしね」
大型の空港は基本的に地方の大都市のような場所にあるもの。
その一方で個人所有の飛行機などはそれを停めるための小規模なターミナルがある。
だから商人はそうした個人所有の飛行機で買い付けに来たりするのだ。
「りっちんは焼きおにぎりは醤油派なんかい?」
「うん、そういう少年は味噌派なの?」
「僕は味噌の方が好みだな、焼いた時の香りとかも味噌の方が好きだし」
「そっか、あたしの世界だと冷食の焼きおにぎりとかは基本的に醤油だったからね」
「保存的な意味なら醤油の方がいいのかもね、味噌は冷凍とかしにくいし」
理津子の世界でも焼きおにぎりは冷食の定番な所がある。
コンビニでもあったりするが、そうしたものは基本的に醤油のものだ。
味噌の焼きおにぎりも当然好きだが、店で買う時にはあまり見ないと感じるらしい。
「にしても七輪買ってきて最初にやるのが焼きおにぎりとは」
「本当はサンマとかも焼きたいんだけどね、こっちだとサンマの旬は秋じゃないし」
「そっちだと秋になると美味しいんだろ、サンマは」
「うん、ただ少し食べにくいから食べる人は選ぶ感じはあるけど」
「確かにワタとか骨とかあるもんね、サンマを綺麗に食べられる人は凄いと思うよ」
七輪で焼くから美味しく感じる食べ物もある。
正月になったら餅でも焼こうかとも考えているようだ。
オーブントースターで焼いてもいいが、せっかくなのでという事だ。
「んまかったぜぇ、こういうのもたまにはいいさね」
「それはどうもね」
「おにぎりとか惣菜パンみたいなやつもそれはそれで悪くないしな」
「リツコのは本格的な家庭料理って感じだもんね」
料理へのこだわりは父親譲りのそれである。
とはいえ作るものの多くは家庭的なものや大衆的な料理が多い。
味に妥協はしないが豪華なものよりも素朴な感じのもの。
それは家のキッチンに立っていた父親の作るものの味なのだろう。




