これでも凄腕
野良メイドの様子を見つつどうするか考えるロザリオと理津子。
ご主人様に連絡しようにも、どこの家なのか。
向こうから来るのを願いつつ話を聞く事に。
そんな野良メイドの腕前も気になるわけで。
「んまー!このクッキーんまー!」
「どうするんだろうこれ」
「ご主人様ってどこの家の人なんだろうね」
その野良メイドは理津子の焼いたクッキーを美味しそうに食べている。
そういえばと名前を聞いてみる事に。
「そういえば野良メイドは名前はなんていうの?」
「あたし?アノットさんだよ、アノット・セントローネ、しくよろ」
「それでアノットは謝りに行けよ」
「嫌だ、あたし悪くないもーん」
主人のお菓子を食べたのは自分なのにこの態度である。
まさに悪びれないとはこの事か。
するとアノットが何かを見つける。
「ん?少年、ちょい来て」
「なんだよ」
「ボタンがほつれてるじゃん、縫ったげるから服脱ぎな」
「…一応仕事は出来るならやらせてみるか、今脱ぐから」
「腕前はどうなんだろうね」
ロザリオがシャツを脱いでアノットに渡す。
するとどこからともなく針と糸を取り出し、ボタンを縫い付けていく。
「ほいっと、出来たぜ~」
「凄いね、あたしよりずっと綺麗に直しちゃった」
「これでも凄腕のメイドさんだぞ~、あたしをなめてたっしょ?」
「そういえば今針と糸はどこから取り出したんだ?」
「ん?ああ、こいつから、その名も道具袋~」
アノットが取り出したのは掌に乗るぐらいの大きさの宝石みたいなもの。
これに収納していたようだが。
「道具袋?どう見ても赤いガラス玉みたいな感じにしか見えないけど」
「ふっふっふ、こいつは機界と人界の合作の道具でね、たくさん収納出来るのさ」
「どこに消えてるんだよ、まさか特殊な空間でもあるのか?」
「そだよ、この中に魔力で作られた特殊な収納スペースがあんの」
「何その四次元ポケット的なの」
理津子はそれっぽいものを知っている。
某猫型ロボットの四次元ポケット、まさかそんな凄いものを見られるとは思わなかった。
道具袋というネーミングもまたゲーム的なネーミングだと思った。
「ちなみに本人以外の人には合言葉言わないと取り出せないようになってるから」
「凄いな、そんなもの持ってるなんてお前何者なんだ?」
「何者?元帝国メイド隊のエースだけど」
「帝国メイド隊?」
「お前、それ国の工作部隊じゃないか!元スパイだぞ、それ!」
アノットの言う帝国メイド隊、それはこの国、つまり帝国直属の工作部隊だ。
ちなみに仕事はメイドとして国や貴族の家などに潜入し情報を集める仕事。
分かりやすく言うとスパイであり、諜報部隊である。
道具袋を持っているのもようやく合点がいったというものである。
「待って、この国って帝国なの?王国だと思ってた」
「帝国だな、皇帝は昔に奪えるものは大体奪ったとかで、今は軍備に金かけてる」
「奪いすぎると管理とか面倒なんよね、だから近隣の国だけ奪ってあとは要塞化」
「はぁ、なんか凄い…」
「派手にドンパチやってたのも昔の話だねぇ、今は国防に大金投入してまったり~ってね」
話してなかったとはいえ、理津子には初耳である。
この帝国が派手にやっていたのも昔の話、今は国防に大金を投じている。
アノットが言うには、近隣の国はそれこそ昔に軍事力に物を言わせ併合。
それからは軍事力は国防に専念したという。
わざわざ遠方にまで派兵しても管理しきれないというのが理由らしい。
なので近隣の国土は恐ろしく広いが、遠方は領土ではないとの事。
「ま、今はこの国もすっかり大人しいさね、ブイブイ言わせてたのも昔の話よ」
「それに併合した国もその土地の人に自治権とか与えられてるし」
「なんか現実的な…」
「それよりお菓子もっとないの」
「お前、まだ食うのかよ…」
すると家のインターホンが鳴る。
理津子がそれに出ると客はレミリアと名乗った。
もしかしてアノットのご主人様だろうか。
「誰が来たんだ」
「レミリアっていう人」
「レミ…あたし隠れてるから適当に追い払って」
「確定だな」
「とりあえず行ってくるね」
客はどうやらアノットのご主人様で確定っぽい。
理津子が玄関に出ていく。
アノットの態度がそれを物語る。
今後についてのお話をする事に。