手軽なだけ
こっちの世界もすっかり秋模様になってきた様子。
秋の味覚が美味しくなり始める季節に理津子もリサーチを開始する。
そんな中自分の世界とこっちの世界の携帯端末事情についても考える。
スマホとあくまでも携帯する電話が主流なこっちの世界の考え方の違いだ。
「りっちんの世界って携帯電話にデータ全部ぶち込んどるんよね」
「らしいな、スマホ一つでネットもゲームも通話もなんでも出来るらしい」
「どう考えてもデータ管理が危ない気しかしないんだよね、それ」
そんな携帯電話の事情。
理津子もこっちの世界でのそうした考え方には理解は示しているようではある。
「お、ねえ、りっちん、そのスマホってデータどんだけ入ってるん」
「あたしの?SNSのアカウントと通販サイトのアカウントぐらいだよ」
「意外と少ないな、もっといろいろあるかと思ってた」
「あたしはスマホは基本的に外でしか使わないからね」
「そうなの?なんか意外かも」
理津子が言うには父親が子供の頃に買い与えてくれたのはパソコンだったという。
父親自身も家では基本的にパソコンで何かとやっていたらしい。
だからなのか理津子もスマホは基本的に外にいる時の連絡手段がメインだったとか。
「そういやりっちん、パソコンをずいぶん器用に使いこなすよね、若者とは思えん」
「お父さんが言ってたからね、スマホもタブレットも受け手なだけならそれでいいって」
「そういやお前、うちのパソコンでホームページ作ってたよな」
「作ってたよ、家でも自分もホームページ作ってレシピサイトやってた」
「料理好きなリツコらしいけど、普通に凄いね」
理津子曰く父親が自作のレシピサイトを作って公開していたという。
子供の頃からパソコンをおもちゃにしていた理津子もそれに習ってレシピサイトを作ったと。
だから家にいる時はネットをするのも基本的にはパソコンだったという。
「りっちん割と機械に強いよね、親の影響って凄いわな」
「お母さんは典型的な機械音痴だったしね、だから家だと家事全般はお父さんがしてたよ」
「お前の家は父親の方が家事をこなす主夫の家だったのか」
「うん、流石に電子レンジとかは使えるけど機能が多いのは苦手だったよ」
「リツコの家ってお父さんが器用な人でお母さんが不器用な人なんだね」
そんな家庭で育ったからなのか、影響の強さは父親が圧倒的なのも納得する。
料理好きに育ち家事も普通に得意で、機械関係に強いのもまた父親の影響だ。
その一方で和菓子作りが得意だったのは母親の影響である。
「りっちんの家庭環境って割と聞いてて面白いよね」
「パソコンが得意なのもスマホとタブレットはパソコンの完全下位互換って知ってるからだし」
「お前にとってのスマホって結局なんなんだ」
「うーん、基本的には連絡がメインかな、ネットを使った事はそこまでないかも」
「年齢と特技が噛み合わない感じもするよね」
理津子は料理が得意なのもあるが、基本的には受け手ではなく作り手側の人間だ。
だからこそパソコンの扱いが得意になったのだろうという事が分かる。
受け手であるだけならスマホで事足りるというのはそういう事である。
「りっちんって創造する側の人間よねぇ、なんか納得したわ」
「スマホ依存が深刻って言われる程度の国だったからね」
「お前は別に依存してるようにも見えないな」
「あたしの場合はスマホ依存っていうよりネット依存の方が近いと思うよ」
「確かに調べ物は辞書を引くよりネットで検索してるもんね」
なんにせよ育った環境というのは何かと影響が出るものである。
スマホはあくまでも手軽なだけであり、作り手の理津子には不便なだけだ。
そこには作り手側であるか受け手側であるかの考え方の違いが見て取れる。
「でもレシピサイト作ったりしてる辺り機械に強いわな、りっちん」
「こっちは機界との交流があるからあたしの世界よりずっとスペックの高いの使えるし」
「そのスペックを普通に使いこなしてる辺り異世界人なのに適応しすぎだろ」
「違いがあるとはいえ似てる部分も多いから適応出来ただけだよ」
「連絡手段ならただの携帯電話の方が楽なのかもね、リツコは」
理津子はガラケーと言ってしまうが、こっちの世界の最新機種はシンプルな携帯電話だ。
そうした理由は機界人達がデータを集めた結果行き着いた結論なのだろう。
だからこそパソコンはその分スペックが高いのもある。
「りっちんの家庭環境って聞いてて楽しいから飽きんよね」
「まあよくも悪くもあたしがこうなったのも家庭環境だしね」
「いろいろ感覚がおかしいのも含めてだろうな」
「ロザリオってお姉さんに弱いよね」
そんな育った環境から身についた考え方。
パソコンが得意になった理由。
親に与えられたものが子供にとってのおもちゃになる。
パソコンをおもちゃにして育った理津子はネットの怖さも知っている。




