港町と夏
自分の世界との繋がりは確保したのでとりあえず一段落。
とはいえ向こうから荷物を転送させる方法は今は保留だ。
なので向こうから荷物を手に入れるのは今は諦める。
だが技術についてはなんとなくではあるが理解はした様子。
「りっちんって親の影響で料理好きになったんよね」
「どう考えてもそうだろうな」
「最初から始めたりする本格さとかあるしね」
そんな理津子も自分の世界の珍しい料理なども試したりしている。
ここは港町なので海の幸が安く手に入るのは大きいと感じているようだ。
「この匂いってカレーかね」
「お待たせ、サバカレーだよ」
「サバカレー?魚のサバの事か?」
「うん、それとイワシの角煮も作ってみた」
「美味しそうだね、魚料理は好きだし」
作ったのはサバカレーとイワシの角煮。
港町で魚などが安く手に入るからこそだ。
ただイカとタコがなかなか手に入らないのが辛いと理津子は漏らしている。
「サバカレーねぇ、この街だとイワシカレーは名物だけどサバなんか」
「美味しいよ、あたしの世界の海沿いの県の名物なの」
「イワシの角煮か、この街でも食えるけど、これはまた違う感じなのか」
「あたしの世界での味付けで作ったからあたし好みの味だね」
「ふーん、なら食べようよ」
理津子の作ったサバカレー。
それは恐らく某ネズミーランド県の味をイメージしたと思われる。
理津子曰く父親がよくいろんな県の名産品をシェフ時代の友人から送ってもらうらしい。
「んー、これ美味いじゃん、サバの身も柔らかくてホロホロだわ」
「魚を使ってるからシーフードカレー向けのスパイスの配合で作ってるからね」
「お前、使う食材で配合を変えてたりするのか」
「そうだよ、ただあたしココナッツを使ってるカレーがどうにも苦手なんだよね」
「ココナッツって事は甘い感じのカレーって事かな」
理津子が言うにはココナッツを使ってあるカレーはどうにも苦手だという。
嫌いではなく食べられるが、そこまで美味しいと感じないとか。
マッサマンカレーのようなそれが理津子は食べられるが苦手とのこと。
「このイワシの角煮は酒に合いそうな味付けだね、街のものより醤油が濃いのかな」
「うん、少し濃い目の味付けで作ってあるから」
「子供の僕でもこれは美味しいと感じるな、止まらない」
「都合のいい時だけ子供なんだから」
「でも確かに美味しいよ、味付け自体は甘いに寄ってるけど、醤油ベースだからなのかも」
理津子曰く魚は揚げ物でも醤油で食べる派なのだとか。
なので魚を使った料理は醤油をベースとした味付けにする事が多い。
このイワシの角煮もそんな醤油ベースのタレで食べるのだ。
「そういやりっちんってカレーにも好みってあったりする?」
「うん、あたしはお父さんがよく作ってくれてたのもあるからホテルカレーってやつかな」
「ホテルカレー?よく分からないジャンルだな」
「簡単に言うとホテルのレストランで出されるようなカレーだよ、あれが凄く好きなの」
「よく分からないけど、つまりホテルで食べられるカレーなのかな」
理津子が好きなカレーはホテルカレー。
それは父親がよく作ってくれていた事もありカレーといえばホテルカレーなのだ。
カレールウで作るようなカレーも好きだが、ホテルカレーにはどれも勝てないのだという。
「ホテルカレーねぇ、なんか贅沢そうな響きかも」
「あたしの世界だとホテルに宿泊しなくてもレストランだけ使うみたいな事も出来たからね」
「つまりホテルのレストランに仕事の合間に飯を食いに行くとかも出来るのか」
「そう、まあ相応の値段はするけど、それでも安く美味しいものが食べられるよ」
「凄いね、こっちだとホテルは宿泊するのが前提だもん」
ホテルカレーのレシピ自体は理津子も父親から教えてもらっている。
とはいえカレールウで作るようなカレーと比べると作るのに時間がかかるのだ。
それもあり作れるが面倒なので積極的に作らないだけなのだとか。
「なら今度そのホテルカレーってやつを食わせてよ」
「それは構わないけど、作るのに時間がかかるよ」
「別にいいよ、お前がそういう料理を作るのはもう慣れてる」
「まあ過去にも時間のかかる料理は作ってるけどね」
「だから全然いいよね、食べたい」
そう言われたからには作るしかないと思った。
ならば父親直伝で秘伝のホテルカレーを作ろう。
材料は分かっているので、時間を確保するところからである。
「サバカレーんまかったぜぇ、サバの美味しさが出まくってた」
「それはどうも、サバカレーはサバの旨味がポイントだからね」
「ホテルカレーも期待してるからな」
「楽しみにしてるね」
そんなホテルカレーを作るという約束。
もちろんホテルによって味は違うものではある。
理津子の父親がシェフをしていたホテルのホテルカレーを作る。
これは気合いも入るというものである。