縁日の定番
こっちの世界でもすっかり夏も始まっている様子。
とはいえ港町で海風があるからなのか、思ってるよりは涼しい。
そんな中理津子がまた何やら作っている様子。
どうやら縁日でよく売っている飲み物のようだが。
「りっちんってないなら作るでなんでも作るよね」
「あいつ、材料とかどこで見つけてくるんだ」
「そういうのを扱うお店もあると思うんだけど」
そんな作っていたものを持ってくる理津子。
それはどうやらビー玉で飲めないというあれのようで。
「なんか飲み物かね、それ」
「うん、ラムネを作ってみた、瓶も手作りだよ」
「そこまでやれとは言ってない」
「暑い日はラムネが飲みたくなるから作ってみただけだよ」
「それでラムネってなんなの」
こっちの世界にはラムネはどうやらない様子。
そもそも理津子の世界でも言葉を上手く聞き取れなかった事で生まれたラムネ。
元々はレモネードだったものが言葉を上手く聞き取れずラムネになった説がある。
「ん、これ炭酸なんね、ただなんで瓶の中にビー玉が入ってんの?」
「ラムネってそういうものだからね」
「飲みにくいだけだろ、この瓶の中のビー玉は」
「あたしもそれは思ってるけど、ラムネはそういうものだからね」
「でも美味しいね、夏には美味しいかも」
ラムネの瓶の中にあるビー玉は慣れないとそれが栓になってしまう。
なので慣れていないと飲みにくいのもラムネの楽しみ方だ。
そんな瓶まで手作りする理津子の器用さが窺える。
「ぷぁ~、こいつぁ暑い日に飲むと美味しい飲み物だね、あたしには分かる」
「そうそう、あたしも縁日に行った時は決まってラムネとかき氷なんだよね」
「お前、普段から平均摂取カロリーの倍ぐらい摂取してないか?」
「今はしっかり運動してるから太らなくなったよ」
「リツコって継続だけは得意だよね」
縁日でキンキンに冷えたラムネを飲む。
それは理津子の縁日での楽しみなのだとか。
定番の焼きそばやフランクフルトなどよりもラムネを飲みたくなるらしい。
「でもこのラムネってレモネードっぽい味がしない?」
「あたしの世界で外国の人が持ってきたレモネードが元になったっていう説があるからね」
「つまりレモネードを真似して作ろうとしたのがこのラムネなのか?」
「一説ではね、あとレモネードっていう言葉を上手く聞き取れなくてラムネになったとか」
「そうなんだ、外国の言葉だから上手く聞き取れなくて訛った感じなのかな」
理津子の暮らしていた国自体が魔改造を得意とする国でもある。
なのでレモネードがラムネに化けてしまうのも分からなくはない。
本当かどうかは分からないがビーフシチューから肉じゃがが出来た的な話だ。
「にしてもレモネードがラムネになるって言葉の違いなんかねぇ」
「あたしの世界の場合国によって言語が違うとかあるからね」
「こっちでも世界によって言語は違うぞ?翻訳出来る道具があるから話せるだけでな」
「そうなの?普通に話してるからそうでもないかと思ってた」
「交流が本格的に始まった時に翻訳する道具が作られたんだよね」
言葉の違いから生まれたものは理津子の世界には割とある。
また外国の料理を作ろうとして生まれた料理なんかもある。
他にも外国のものを自国の民の口に合うようにアレンジした料理などもある。
「でもさ、勘違いから生まれてもこんな美味しいもんを作れるってやばくね?」
「あたしの住んでた国って食の事にはとにかくうるさい国だったからね」
「つまり食へのこだわりは元々強いから真似しようにも手を抜かないって事か」
「実際外国の料理や食べ物を参考に生まれたものとかあるしね」
「レモネードが言葉を上手く聞き取れなくてラムネになるって面白いね」
それが今ではすっかり夏の風物詩になったものがラムネでもある。
どうやって生まれたかというのには意外な生まれがあったりするものだ。
偶然から生まれたものは意外と多いのかもしれないと思った。
「ラムネんまかったぜぇ」
「こっちの世界にはラムネってないんだね」
「似たような炭酸飲料はあるけど、ラムネって名前ではないしな」
「似たものならあるんだね」
「リツコの世界と似ててもあるものとないものはあるみたいだね」
こっちの世界は確かに食べ物なんかは理津子の世界と似ている。
ただ旬が違ったり似ているが別物の食べ物があったりする。
そしてこっちでは珍しかったりそもそも存在しないものもある。
「また作ってよ、美味しかったから」
「暑い日には作って冷やしておこうと思ってるし、いいよ」
「瓶まで作れとは言ってないけどな」
「こだわるよね、リツコは」
そんな縁日の定番でもあるラムネ。
こっちの世界にも似たものはあるがラムネは存在しない。
ないなら作ればいいという理津子の精神も大したものだ。
縁日で飲むラムネの美味しさを理津子は知っている。