ドライカレー論争
竜界旅行から帰ってからスパイスを使った料理も模索している理津子。
これからの季節は夏になるという事もあるからなのだろう。
そんな中理津子の作ったメニューで論争が起きた様子。
それは料理の解釈の問題なのか。
「スパイスのいい匂いだねぇ」
「あいつ、本当に料理に関してだけは器用すぎるよな」
「でも美味しいから私は好きだよ」
そんな話をしているとその匂いの料理が運ばれてくる。
その料理の名前は。
「お、待ってました」
「うん、今回はドライカレーにしてみたんだけど」
「待て、これはカレーピラフだろ?」
「えっ?ドライカレーだよ?」
「待って、つまりこれはなんなの?」
理津子が言うにはドライカレーだという。
ロザリオが言うにはこれはカレーピラフだという。
出てきたものはカレー粉で味付けした炒めたご飯だが。
「ちょい待ち、りっちん、これの名前は?」
「だからドライカレーだよ」
「いや、だからドライカレーは野菜と挽肉のルウをかけたカレーライスだろ?」
「えっ?ドライカレーってカレー粉で炒めたご飯の事じゃないの?」
「リツコの言うドライカレーとロザリオの言うドライカレーは違うものを言ってるよね?」
これはつまりドライカレーという料理がどんなものなのか二人の間で食い違っている。
理津子の言うドライカレーとロザリオの言うドライカレーは別の料理のようだ。
これはつまり世界や環境による違いを言っているという事になるわけだが。
「りっちんの知ってるドライカレーはピラフ状のものなんね」
「あたしはずっとこれをドライカレーだって食べて生きてきたんだけど」
「僕の知ってるドライカレーは挽肉と野菜のルウがかかったカレーライスだぞ」
「少年の言ってるそれってキーマカレーじゃないの?」
「これって要するに平行線ってやつ?」
理津子が思うロザリオのそれはキーマカレー。
ロザリオが思う理津子のそれはカレーピラフ。
だが料理の定義上たぶんどっちもドライカレーで合っているはず…なのだが。
「うーん、どっちもどっちな気がするけど、美味しければいくね?」
「あたしが自分の世界で知ってた限りだとどっちもドライカレーでいいんだけど」
「なんか面倒な事になってきたな」
「まあ美味しければいいって事で手打ちにしない?」
「だよねぇ、それでいいって事にしない」
なんか面倒な事になってきたのでとりあえず手打ちにする事に。
美味しければそれでいいという事になった。
ドライカレー論争はそれで決着になったようで。
「ん、まあ確かに美味しいね、これ」
「でしょ?」
「でもなんで干しぶどうが入ってるんだよ」
「辛いものを和らげるのに入れてるものだと思ってるけど」
「確かに辛さが干しぶどうの甘さで和らげられてるね」
味自体は好評なようではある。
理津子曰くドライカレー、ロザリオ曰くカレーピラフ。
カレー粉で炒めた米をなんと呼ぶかは触れてきたものの影響だろう。
「でもさ、カレーに干しぶどうを入れるって発想はどこから来たん?」
「それはあたしもよく分からないけど、味を調える目的じゃない?」
「確かに味が崩れてないからそんな感じはあるけどな」
「不味くないって事は特に問題はないって事だろうしね」
「干しぶどう自体は普通に美味しいもんね」
ドライカレーとはなんなのかというのはそれを食べてきた人の解釈。
理津子の世界で言う例のお菓子みたいな感じなのかもしれない。
料理の名前は地域などによって違うのは理津子も知っている。
「りっちんってカレーをスパイスから作るってのはガチ勢よねぇ」
「お父さんに教わっていろいろ試したからなのはあるんだけどね」
「お前の父親が料理が上手いのは伝わるけど、父親が台所に立つのも珍しいな」
「そう?あたしの世界だとプロの料理人もパティシエも基本的には男ばかりだよ」
「プロに男が多い理由って結局は体力的な問題だったりするわけでしょ」
なんにせよ理津子はそんな台所に立つ父親の背中を見て育ってきた。
だからこそ料理好きになったの確実ではある。
料理の可能性の大きさを感じているのもあるのだろう。
「ふぅ、論争はともかくんまかったぜ」
「それはどうも」
「ドライカレー、僕の知ってるものとは違うけど美味しいからいい」
「若干ツンデレてきてるのかな」
そんなドライカレー論争は美味しいのでいいとする。
しかし解釈とはこうして食い違うものである。
理津子の思うドライカレーとロザリオの思うドライカレー。
どっちも違ってどっちも美味しい、それでいいのだ。