今夜は魚料理
街を一通り見て回った帰りに魚を買って帰宅した理津子とロザリオ。
すっかり夕暮れになっていた事もあり、とりあえず夕食の準備をする事にした。
魚料理にしても何を作るか考える。
そんな凝ったものより大衆食堂的な料理にするのは決定のようだが。
「さて、それじゃご飯にしますか」
「魚料理って何を作るんだ」
「うーん、凝ったものより大衆的なもの?」
なんにしても食材をキッチンに運び各自冷蔵庫などにも入れていく。
その一方で食事に使う魚はそのまま調理を開始する。
「買ったのは鯉の切り身と鰆の切り身、あとは鰤の切り身…季節バラバラだね」
「こっちの世界では魚の旬とかも違うのかな?まあいいや」
「鯉の切り身は煮魚、鰆は焼き魚、鰤は西京焼きにしよう」
「調味料はこの前買ったものがあるから問題なし、と」
そんなわけで魚の調理を始める。
時間のかかるものから始めて、時間を見つつ調理をしていく。
ちなみに理津子は魚は捌けるものの、今日は切り身にしたらしい。
魚を捌くのは手間もあるので、それは時間に余裕のある時にやる事にしたという。
「うん、こっちはいい感じ、出かける前にご飯仕込んであるからちょうどいいかな」
「こっちもそろそろ…うん、あとはこっちもあと少しかな」
「ついでに粉吹き芋でも作ろう」
そんな感じで調理は進み、夕食が出来上がる。
相変わらず盛り付けは男飯である、大衆食堂の娘という血は争えないらしい。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
「ん、このお魚美味しい、でも見た目や味はあたしの世界とそっくりだけど少し違うよね」
「世界が違えば食材も違うだろ」
「んー、違うっていうか、似てるけど同じじゃないって感じ、味とかはそっくりだけど」
食材に関しては理津子の世界とそっくりだが、微妙な違いがあるらしい。
魚の旬も理津子の世界とは違うらしく、今の季節でも旬が違うと理津子は感じた。
魚の名前なども違うものの、理津子の世界の魚と味や食感は近いが別物だ。
それについても覚える必要はあるが、同じ感覚で調理は出来ると考える。
「そういえば理津子はなんでこんな豪快に作るんだ」
「家が大衆食堂だからだよね、お客は基本的にたくさん食べる人だし」
「元々料理は好きとか?」
「うーん、親の背中を見てたから自然と覚えたんだと思う」
理津子は親の仕事場を幼い時からよく見ていた。
都会に出るまではその事もあってか、キッチンを借りて夜食を自分で作ったりしていた。
都会に出てからも誘われなければ基本的に自炊をしていたという。
つまり他人の金で食べる飯は美味いという事らしい。
「でもこの腕前はただの食堂じゃ身につかないと思うけど」
「お父さんが昔高級ホテルでシェフをしてたって言ってたよ、だからなんでも作れるって」
「凄いな、ホテルのシェフなんて選ばれた人しかなれないのに」
「それで辞めてから大衆食堂を始めてお母さんと結婚したんだって」
高級ホテルでシェフをしていたという理津子の父親。
本当かどうかはあえてはぐらかすらしく、そこは本当かどうかは知らないらしい。
とはいえ理津子が料理を好きになったのもその背中を見ていたから。
そしてその料理を美味しそうに食べていたからだろう。
「お父さんが言うには一流は食材を選ばないでも美味しいものを作る人だって」
「でも高級食材の方が美味しくならないか?」
「お父さん曰く本物の一流は用意されたものだけで美味しいものを作れる人なんだって」
「へぇ、なんかかっこいいな」
理津子の父親の考える一流。
それを理津子も受け継いでいるのだろう。
ちなみに母親は田舎の出身で、都会に出た事がほとんどない人だとか。
用事以外で都会には行かない人らしく、結婚したのもお見合いだったという。
「さて、ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「片付けたらお風呂入って寝ようか」
「ちゃんと服を着ろよ」
「就寝用の下着でもいい?」
「もう好きにしろよ」
そんな話もしながら食事は完食。
ロザリオも出されたものは食べるらしい。
食器の片付けを終えたらそのまま風呂掃除と寝る準備をする。
そのうち街の外に出て他の街や村などにも行ってみたいと思う理津子だった。