第9話
オーク将軍、それはオークを指揮する上位種。俺的にはハイオークとか、オーク指揮官とか…もっと適切な呼び名があったと思うわけで、将軍職がそんなにいるのかよ!と誰もが1度は突っ込む頻度で出現する。出現した場合、最低でも45レベル以上のレベルがあり、オークを狩ってレベル上げをしていた初心者達は大抵…ゲームオーバーに追い込まれる。
ついた異名は『初心者殺し』。
「どうするよ?」
ちなみに俺は単独でオーク将軍に勝てたことがない。アイテムや武技などを上手に使えば40レベル台の冒険者なら勝てると言われていたが…俺にはその「上手に」ができなかった。
「やりましょう」
ベアリアは戦う意欲があるらしく、戦闘態勢に入っている。2人なら不可能ではないか。しかし、目の前にいるオーク将軍の強さがわからない。
「装備はオークのハンドアックスに…鉄の盾か」
オーク将軍は人間の冒険者や兵士から武具を奪い取ることで自らの装備を充実させているという設定があった。尤も、オークの太い肉体にフィットするような鎧などはそうそう手に入ることもなく、奪えるのは盾とか手に持てるものに限られる。
「鉄の盾は大方初心者を殺して奪ったか」
オーク将軍はベアリアの射撃を恐れてか、背を向けて逃げることもなく、こちらに斬りかかってくることもなく、盾を構えてジッと睨んでくる。正直…怖い。逃げたい。
「異世界転生にチートは必須じゃねぇのかよ…」
正攻法では勝てない。俺が盾で攻撃を防いでも、力負けして俺の腕が折れる。そして一撃でも斧が当たれば…即死だろう。レベル100とかになったら生身でも刃物で傷1つつかないのかもしれないが、俺の身体は俺がよく知っている。ボディービルダーより図太いオーク将軍の腕から繰り出される一撃には耐えられない自信がある。
これはHPを削り合うゲームではなく、単純明快な殺し合いなのだ。
「ベアリア、1つ教えておく」
「はい」
俺は不恰好な小刀となった旅人の剣を抜き、明らかに投げるぞという構えを取る。オーク将軍は俺の武器投げを警戒して1歩下がった。
「俺は英雄志望じゃないからな」
そんなことお構いなしに旅人の剣を武器投げでオーク将軍の頭に投げる。すると、オーク将軍は盾で頭部を守ったが、俺はすでに次の行動に移っていた。
「ファイアボール!」
剣を振り回すのが大好きな戦士でも覚えられる初級火魔法。バレーボールくらいの大きさの火球を飛ばす魔法だ。威力の目安はぼっちウルフを倒すのには5回ファイアボールを当てる必要がある程度。つまり、ベアリアの骨弓の5分の1ほどの威力。
俺はそれをオーク将軍の…頭を狙って撃ちまくる。
「ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!」
4発撃っただけでMPが半分も消費されている気がする。一方でオーク将軍は特に厳しそうにすることもなく、顔の前で盾を構えてファイアボールを防いでいた。
よし、足がガラ空きだな。
「膝狙え!ファイアボール!」
ぼっちウルフもツノ兎も、オークすらもヘッドショットを決めたベアリアなら膝を狙うなど容易いはずだ。
「はい!」
光の矢がオーク将軍の右膝を貫く。
「ンブギッ!」
「ハハハハッ!ファイアボール!ファイアボール!」
「連続射撃!」
両膝を射抜かれたオーク将軍は盾を顔の前で構えながら崩れる。そして斧を地面に突き刺して身体が倒れるのを支えた。
「ベアリア!遠距離攻撃に警戒しつつ、とにかく遠くから攻撃しろ」
さぁ、動けなくなった状態で、初期装備の1つである鉄の盾で、俺達からどう身を守るというのだね。
「うぉぉぁぁぁああああああ!」
俺は姿勢を低くして盾を構えてオーク将軍に突撃する。ベアリアはオーク将軍から一定の距離を保って半円に動き、その途中で光の矢を何度も射る。
「ブヒッフガッ!」
オーク将軍は背後をベアリアに取られるのを恐れて、自分達が突破を図ろうとした家に背中を預ける。その間、ベアリアの矢を肩や脇腹などに受けるが、背中を守ることに成功し、息を荒だてながら、ベアリアの矢を防ぎ始めた。
「想定内だ」
突撃した俺の目的はオーク将軍への攻撃ではない。そもそも武器を持ってないし。
目的は武器の回収。ただそれだけ。
俺はベアリアとオーク将軍が射る防ぐをしている間に、自分が投げた旅人の剣やオークのハンドアックス、そして死んだオーク達が持っていたオークのハンドアックスも回収して、即時離脱を図る。
「いくぞ…」
機動力を奪い、遠距離から徹底的に攻撃する。この作戦において邪魔なものはあと1つだ。
「武器投げ!」
まず1本目のオークのハンドアックスを投げる。ベアリアの弓より明らかに威力がありそうなそれをオーク将軍は難なく盾で防ぐ。
「武器投げ!」
続けて2本目。これもコースが一緒のため、簡単に防がれた。しかしベアリアの矢が腹に刺さる。
「武器投げ!」
次に不意打ちで旅人の剣。質量的に斧より軽く、素早く飛んだ剣だったが…さすがはオーク将軍。見事に鉄の盾で防いでみせた。そこでようやく…
「ブフォッ!」
オーク将軍は身体を支えていた自分の斧を俺に向かって投げてくる。当たれば直撃だが、鈍重なオーク将軍が俺の武器投げを防げるというのに、人間の俺が手負いのオークが投げる武器投げなどに当たるだろうか。
おまけに唯一の懸念事項として警戒も怠ってはいなかった。俺は飛んでくる斧を真横に走って避ける。
これでやつは攻撃手段を失った。
「武器投げ!」
そして最後に残ったオークのハンドアックスを投げる。すると、計算はしていなかったが、十分に予想していた出来事が起こる。
鉄の盾の破壊。
ゲームで装備品が壊れることはない。しかし俺の旅人の剣は武技の負荷に耐えきれず折れた。つまり、オーク将軍が持っている鉄の盾も壊すことが可能なのではないか。
「ブヒィィィィイイイイ!」
鉄の盾は新人冒険者の初期装備だ。ファイアボールや武器投げを何度も食らえば、いつか壊れると踏んでいた。
「僥倖僥倖!」
動けず、攻撃手段も防御手段も失ったオーク将軍に何ができるというのだ。勝った。間違いなく。
「いや、油断大敵だな」
俺はベアリアに頷く。
「連続射撃!」
「ファイアボール!」
「プギィィィィイイイイ!」
あとは徹底的に、オーク将軍が力尽きるその時まで、ひたすらに遠距離攻撃をし続けた。




