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第7話

「クマノヴィッツ様!クマノヴィッツ様!」

 …クマノヴィッツって誰だ。揺するな。眠い…


「クマノヴィッツ様!」

「う…ううん…?」

 重たい瞼を開けると、それはそれは大変美しい美女と目が合う。そこでようやく俺は自分の置かれた状況を思い出した。


 クマノヴィッツ、俺のことだ。そして異世界生活2日目の朝か。夢オチなら良かったのに。


「おはようベアリア…今日も相変わらず美人ですことで」


 そうか、俺は昨晩見張り役としてギリギリまで起きていたんだ。何時間見張りをしていたかはわからないが、ベアリアと交代するとすぐに意識がなくなった。

 立ち上がって、コートについた土を払い、空を見上げると…青空が広がっていた。ベアリアめ、やはり交代から1度も俺を起こさなかったな。


「魔物はいた?」

「い、いえ…見てません。それより、あちらを!」


 緊張感なく爆睡してしまったずぶの素人である俺にベアリアは何やら慌てた様子を見せて、ある方角に指をさす。


「煙です!」


 ベアリアが指した方角の上空には白煙が上がっていた。発生元はおそらく森の奥、距離はかなり遠いように思われたが、ベアリアが慌てた様子を見せたのにはちゃんと訳がある。


「なんか…量が多いな…」


 ここから見える限り、上がっている白煙の量が焚き火や狼煙といったレベルではなく、まるで…

「火事でもあったか?」

 もしあれが火事で発生した煙なら、朗報の可能性と悲報の可能性がある。

 朗報の可能性としては人家の火事。それ即ち、そこに行けば消火活動にあたっている人々と接触できる。

 悲報の可能性としては山火事。ならば回れ右をして、一目散に逃げなければ…大災害に巻き込まれかねない。


「ベアリア、雷や噴火等はなかった?」

「はい」


 焚き火する時に思ったが、落ちてる木の枝は乾燥していたし、雷以外にもなんかの拍子で燃え広がった可能性はある。後、山火事で考えられるとしたら…


「放火の類はどうだろうか」

「放火、ですか?」


 煙草の不始末とか愉快犯とか…まぁ、それでも人がいることにはなるのか。

 そんなことを思っていると、ベアリアから予想外の言葉が出た。


「森で火を吹けるとなると、龍種ですか?」


 …ああ、火を使うのは人間だけじゃないもんな。完全に見落としていた。その場合、火とか水とか属性攻撃が使える魔物の存在も視野に入れる必要があるが、そうなると逃げる一択だぞ。ぼっちウルフやツノ兎とはレベルが違う。


「どう思う?」


 ベアリアも俺と同じことを考えているのか、難しい顔をする。

「仮に魔物の仕業だった場合、私達は装備不足な気がします。こちらの攻撃手段は弓だけですから」

「すまん」

「いえ、しかしもしそこに人がいるのなら…」

 ベアリアの視線が俺に向けられ、何かを訴えてくる。


 ーークマノヴィッツとしての行動を求められるーー


「あー、なるほど」


 昔も今も、どんなゲームの主人公もなぜか勇敢だった。


『助けてください!』

【はい】【いいえ】


 この場面において、主人公は【はい】を強制的に選ばなければならない。もちろん物語の進行上やむなしではあるが…俺的には安全策を選びたいので【いいえ】を選択したい。たとえ多額の報酬があったとしても、危険なリスクを伴う以上は安全策をとるべきだ。


 正義など、そんなものはとうの昔に捨てている。生き残るやつは助けなくたって、自然に生き残るのだから。勝手に助かるやつの助けなんて誰が好き好んでやるというのだ。


 しかし、クマノヴィッツはそうじゃない。ゲームの中では何度となくクエストという形式で困っている人々を助けている。それを後ろで支えてくれたのがベアリアだ。


 こりゃ厄介だな。


「オーケーオーケー、とりあえず様子見に行こうか」

「はい!」


 あぁ畜生、なんていい顔で笑いやがる。それでこそクマノヴィッツ様!…とか思ってる顔だ。


 身支度を手早く整えて、忘れ物がないかを確認し、煙の方へと駆け始める。先頭は盾を持つ俺が行き、ベアリアはいつでも矢が放てるように用意しながらついてくる。


 俺は頼むから荒事にだけは巻き込まないでくれよ、と心の中では願うが、何となく…嫌な予感がしていた。例えるなら、親が「あんたの部屋掃除してたらさ…」と口にした時のような無意識に身体が強張るような感じだ。


「きゃぁぁぁああああああ!」


 ほら、風に乗って悲鳴が聞こえてきたぞ。

「クマノヴィッツ様!」

「わかってるよ…」


 くそったれ…


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