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第51話

・龍の剣用語集に載る新種魔物のアイデア募集中。

 遡ること20分、俺はイセスに連れられて川まで来ていた。曰く「護衛として上流区域についてきて」とのことだった。何でも、上流区域の森に生息する魔物は凶悪であり、最低でもヒノイ君並みの強さを必要とするらしい。しかし…上流区域にはこれといって有用な目的がないため、最近では誰も踏み込んではいないという。


 これを聞いた時に不安はあった。片腕を失ってもヒノイ君には勝てたが、それが多種多様な魔物に通用するのかもそうだが…護衛となると、情報不足が致命的だ。

 それでもイセスは俺じゃないと頼めないという。せめてヒノイ君は連れて行こうと言ったが、断固として拒否された。おそらく、というより間違いなく…タロニッツ案件だろう。そうとなれば、命の恩人であり、関係者でもあるイセスに従わざるを得ない。


「いいか?ヤバいと思ったら」

「すぐ逃げる」

「俺が退けと言ったら」

「すぐ逃げる」

「俺の言うことは」

「すぐ逃げ…ないで、ちゃんと聞く」

「従えよ?」

「りょーかいです先生」


 果たして俺は先生と呼ばれるほど大層な人間だったのだろうか。何となくだが…俺はイセスやヒノイ君と変わらない気がする。豊富だと言われる知識だって…きっと彼女達が持たなすぎているだけではあるまいか。

「それで?川上りの目的は?」

「石碑探し」

「石碑?」

「はい、石碑を巡ればタロニッツが示す廃墟に辿り着くんだそうです。そこに何か資料があると」

 俺の後ろを歩くイセスは何故か上機嫌に鼻を鳴らして答える。さすがに俺はチラリと彼女を見返した。


「緊張感持て」


 ヒノイ君の話ではドラドラトカゲやビッグコッコが出現するとのこと。もっと強い魔物の存在も否定できない。その証拠に上流区域に足を踏み入れてから、1度も安全地帯の権化とも言われるぼっちウルフを見ていないのだから。

「あ、すみません」

 幸いにも素直に謝って、周囲を警戒し始めた。

「村からこんなに離れたことがなかったものですから、つい…」

 とはいえ、黙って歩くだけというのも暇なものだ。


「そんなに悪い村でもなかろうよ」

 イセスはトットラ村のことがあまり好ましくないようだった。それは根本的に森に囲まれた寒村が好ましくないのか、保守的で発展を諦めた現状が好ましくないのか…

 個人的にはトットラ村はいい村だと思う。生活は自給自足を軸に、足りない部分は森の恵みで補っている。周囲には危険な魔物もおらず、基本的には安全だ。平和なのはいいことだ。俺が知ってる村はもっとこう…酷かった。


ーー肉が焼ける匂いと鉄の匂い…地獄だなーー


「ん?」

「先生?どうしました?」


 そりゃ何の記憶だ?

「ああいや…何でもない」

「そうですか…でもあんな鳥籠みたいなところに何十年も暮らせないと思いますよ?療養地としては悪くないんでしょうけど。あ、そうだ!」

 記憶…燃えた村、人とオークの死体…

「私もリットラン大聖堂に…」


ーー私も連れて行ってくれませんか?ーー


「シン…シア?」

「え?」

 いや誰だ?どんな顔をしていた?どこで会った?

「あーーー… あの村長がお前さんを手放すとは思えないんだが?」

 わからん。が、記憶を完全になくしたわけではなさそうで安心した。何か思い出せる余地がありそうだ。

「ですよねぇ…」

 そんな俺をよそにイセスは落ち込んだ声を発すると、ピタリとその気配が止まった。そんなに凹むことだったろうかと振り向けば、彼女は俺……を越えた奥に目を凝らしていた。


「イセス?」

「あれって…石碑ですかね?」


 そう言われて俺もイセスの見ている方を見てみたが、どこまでも静かな森と穏やかな川が続いているばかりで、石碑のようなものは見えない。

「目が…いいんだな…?」

「え?見えませんか?川の真ん中に大きな岩が…」

「川に岩なんて呼べるほどのものはないぞ」

「えぇ?あるじゃないですか」

 イセスが俺を追い越して先行する。

「あ、おい…」

 護衛しなきゃいけない対象が先行するのはいただけないとイセスの背中に声をかける。

「やっぱり石碑です。やっと見つけた…!」

 しかしイセスは先行するばかりか、急に走り始めた。夜を迎える前には村に戻らなければならないので、それなりに焦っていたらしい。

「待てイセス」

 俺は仕方なくイセスの後を追いかける。しかし、彼女が行く先にはやはり大きな岩などなかった。

「イセス!」

 さすがにおかしいと思って、走るイセスに追いつくや否や、その左手首を掴んで立ち止まる。

「ちょっ…先生」

「落ち着け。焦るな」

 俺の方を不満げに見てくるイセスの目は至って正気に見える。何か幻覚に惑わされているわけではなさそうだ。

「すまんが、俺にはその石碑ってやつが見えていない。イセスには見えるんだな?」

「はい」

 とりあえず…信じてみるか?

 イセスに力を授けたタロニッツが何者なのかわからないが、そんなことができるということは…彼女1人にしか見えない石碑を作り出すこともできるのではないか?


「どの辺にあるんだ?」

「もうすぐそこですよ。ほら、小鳥がいる少し奥です」


 イセスが目印として指さしたのは数十m先の川辺に降り立った小鳥だった。よく小鳥の存在に気づけたものだ。やっぱり目がいいのかもしれない。

「小鳥の周りには…何も…?」

 などと思っていると…目が合った、気がする。

「先生?」

 距離はそこそこにあるし、ここからだと白い豆粒のようにしか見えない小鳥だが…明らかにこっちを見ている。何か…すんごく嫌な予感がする。

「白い小鳥…」

 俺が小鳥と見つめ合っていると、小鳥の背後の森から3匹のぼっちウルフが姿を現す。

「あ、小鳥が…!」

 ぼっちウルフは臆病なため、基本的に自分より弱いものだけを襲う。あのサイズの小鳥なら餌として…

「いや待て、変だ」

「え?」

 小鳥を襲うなら勢いよく飛びかかるか、忍び寄って一撃を狙う必要があるはずなのに、3匹のぼっちウルフは平然と小鳥の後ろを歩いている。


 そもそも、なぜぼっちじゃない?

「ピロロロロロ、ピロ、ピロピロロロロロ…」


 小鳥が鳴いた。すると、俺達を認識していなかったぼっちウルフ達が急に俺達の方を見てくる。まるで小鳥から教えてもらったかのように…

「小鳥、魔物…森…あっ」

 思い出した。あれは…ダメなやつだ。


「イセス!逃げるぞ!」

「え!?でも石碑が…!」

「アオォォーーーン!」


 俺は迷わずイセスの手を引いて森の中に逃げ込む。

「石碑は後だ!死ぬぞ!」

 ドラドラトカゲやビッグコッコは平気だ。倒せる自信がある。しかしあれはダメだ。

「ホワッスルドリだ。小鳥自体の戦闘力は極めて低いが、あの鳴き声は他の魔物を呼び寄せ、弱い魔物なら支配下に置くことができる。ぼっちウルフが群れてた理由だくそったれ」

「え?え?えぇ?」

 対処は単純にホワッスルドリを潰せばいい。司令塔を失えば、後は烏合の衆だ。だが…イセスをぼっちウルフから守りながら、これから大量に集まってくるであろうぼっちウルフに守られたホワッスルドリを仕留めるのは難しい。せめて弓か魔法があれば…


ーーなら私がーー


「今度は誰を思い出した…!くそ!」

 俺は無数の殺気と足音に舌打ちをした。

ーー龍の剣用語集ーー

【ホワッスルドリ】

白い小鳥。清らかな森に生息しているが、かなりの肉食性を有する。しかし、ホワッスルドリ自体はぼっちウルフよりも弱いため、1羽では何もできないが、魔物を使役する鳴き声を発することで、自分の手を汚さずに狩りを成功させる。

際限なく集まってくる魔物に気を取られて、ジリ貧になって負けるというのは初心者あるあるだが、中級者になると、逆によい経験値稼ぎとして重宝される。


(原案…涼風様)

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