第50話
・龍の剣用語集に載る新種魔物のアイデア募集中。
新章始めます。
「イセス…!」
「はっ…!?」
「しぃーー…」
森の中で年頃の娘の口を背後から押さえつけ、木の後ろに息を潜める。妙に犯罪臭い状況だが…今はそれどころじゃない。しかし、年頃の娘というのはいい匂いがするものだ。
「いやまったく…それどころじゃないか」
「ん!んん!?」
俺は木の後ろから少しばかり顔を覗かせ、それどころじゃない原因の様子を伺う。
「グルル…」
「ヘッヘッヘッヘッ」
低い唸り声や早い呼吸を発しているのはぼっちウルフ、しかも30匹以上の群れだった。確か正式名称はロンリ狼だった気がするが…なんでぼっちウルフと呼んでいるのだろうか。
「見逃してくれないか…」
まぁ何はともあれ、あの数はやばい。1匹だけなら、いや、30匹相手でも俺ならまだ対処は可能だ。所詮は雑魚なわけだから。しかし…
「すまんイセス、苦しかったか」
「いえ…」
年頃の娘イセスを守りながらとなると、話が少し違ってくる。さすがの俺でも30以上の攻撃から味方を守る武技は所持していない。ましてや、武器もヒノイ君から借りた鉄の剣1本だけだ。
「フンフンッ…!」
そんなことを思っていると、地面に鼻をつけていた1匹のぼっちウルフと目が合ってしまう。
「や…やぁ…?」
「ァオオオオオォォォン!」
俺の挨拶にそのぼっちウルフは吠えて返してくれるわけだが、同時に群れが俺達の方に殺到する。
「ヤバい…!」
ここも逃げ一択だが…
「はぁ…はぁ…」
ここまでのイセスの体力消費が激しい。これでは彼女が逃げ遅れるオチしか見えてこない。
「えぇい…!」
俺は仕方なくイセスを小脇に抱える。本来ならお姫様抱っこくらいした方がお互いに楽なのだが…生憎と俺にはもう、それができる右腕がないのだ。
「揺れるし、腹に力入れとかないと吐くぞ」
「きゃっ!?」
イセスの頭を前に、俺は走り出した。
イセスには後ろの様子を見せて、状況報告だけでもやらせたかったが、多数の狼に追いかけられているのを見せるのは…トラウマを植えつけるようなものだ。
「とはいえ、どこに走ればいいのやら…!」
体力にも筋力にもそれなりに自信はある。
「ギャゥ!」
殺気にも敏感な方だ。
「ぬおっ!」
俺は背中に飛びついてこようとするぼっちウルフを避けて、木々で撒きながら走り続ける。この調子がいつまで保つのか。しかし…
残念なことに、問題は多数のぼっちウルフにはない。彼らが群れを形成している原因に問題があった。
そもそもぼっちウルフはぼっちだ。群れを形成するはずがないのだ。そんな彼らが1つの殺戮集団となって襲いかかっていることに問題がある。
「ピロロロロロロロロロロロロロ…ピロロロロロ…」
奴だ。あの無駄に長い囀り…
「クソっ!高みの見物ったぁ、いいご身分だなおい」
俺はそう吐き捨てて、頭上の枝から枝へと飛び移る白い小鳥を睨みつけた。
まったく…どうしてこんなことに。
次は少し時を戻します。




