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第5話

 あの後、ぼっちウルフを5匹ほど倒し、さらにはぼっちウルフと同程度の強さと言われるツノ兎を2匹倒した。俺の戦果はぼっちウルフ2匹だけだけど…()は初めて獣を殺すのだから、上出来だろうと思っている。1匹目は盾で攻撃を防ぎつつ、剣でひたすら浅く斬りつけて3分に渡る死闘を繰り広げた。どうやら旅人の剣の斬れ味が悪いらしく、力を込めて斬っても、ステンレスの包丁の方がよく斬れると思わざるをえない。そこで2匹目からは刺すことにした。


「来ます!」

 本日6匹目のぼっちウルフが飛びついてくる。それを俺は盾で真上に弾き飛ばし、背中から地面に落ちたぼっちウルフに急いで旅人の剣を真上から突き刺す。

「死んでくれよ…!」

 手加減なんかしてやれない。俺は旅人の剣に体重を乗せて、苦痛で暴れるぼっちウルフの腹を貫き、その下にある地面にまで剣を刺し込む。その時に剣でぼっちウルフの神経に傷が入ったのか、ぼっちウルフは後足を痙攣させて動かなくなったかと思えば、それでも生への渇望を見せたぼっちウルフは絶命する。


「お前らは悪くない…」


 俺達が森を抜けることを目指す以上、襲いかかってくるかもしれない危険を排除しなければならない。つまり俺達が森にいなければ、ぼっちウルフ達は殺されずに済んだ。

「俺が悪い。すまない…」

 右足でぼっちウルフの胸を踏みつけ、旅人の剣を引き抜く。剣には大量の血がついていた。


「お疲れ様です。剥ぎ取りは…」

「流石にもう持てないだろ」

「そうですね」


 ベアリアの骨弓なら単純な遠距離の一撃で仕留められるというのに、やはり俺って火力ないな。


「…」

 いいなぁ火力。こんなことになるんだったら、クマノヴィッツをもっと強くしておくんだった。武技が使えればなぁ…

「あ」

「何ですか?」


 そういえば、武技のこと忘れてた。武技はMPを一定量消費することで使える。俺の職業である戦士が覚える武技には通常攻撃よりも高い威力が見込めるものがいくつもある。


「ベアリア、武技だ」

「はい?」

「魔法や武技、MPを使う技は出せるか?」

「もちろんです」


 さすがにベアリアは使えるのか。ってなると…コマンド入力ができない状況下でクマノヴィッツが覚えている武技を出すとなると…


「俺、武技の使い方忘れたかも」

 教えてくれると嬉しいなという視線をベアリアに投げると、ベアリアは小さく頷いて微笑んだ。

「ここ最近、クマノヴィッツ様は街から出ていませんからね」

 おそらく大学受験が迫ってログイン勢になった時のことを言っているのだろう。思えばログインボーナスだけは貰おうと、毎日ベアリアとは顔を合わせていたのか。

「俺が覚えてる武技って剛撃、連続斬り、挑発、鎧砕き、回転斬り、峰打ち…」

「あとは武器投げですね」

「魔法はフラッシュとファイアボール、プロテクト、テレポートか」


 悪い。俺はこの身体を、ベアリアを、見捨てようとしたんだわ。


「んじゃ…試しに剛撃を出してみるかな」

 俺は1本の木と向かい合い、旅人の剣を抜いて両手で持ち、ゆっくりと上段で構える。

「武技は頭の中でイメージすると出ますよ」


 …まぁいいか。今は集中。


「はぁぁぁあああああああああああ!」

 いでよ、剛撃…!

 俺は目を閉じて力任せに剣を斜めに振り下ろす。斬れ味の悪い剣だから、おそらく木に切り込みが入るだけだろうが…


 スパッ!


「ん?」

 手応えがない。空振ったか。

「クマノヴィッツ様!」

「あいたっ!」

 ベアリアが俺の右肩を掴み後ろへ引っ張ってきたので、俺はその場で引きずり倒される。尻餅をついたところで目を開けると…目の前にあった木が俺の右側に倒れてきた。

「危ない!」

「マジか!」

 剣を手放して慌てて左に転がる。すると、視界の外で木が軋み、倒れる音が聞こえてきた。


「あっぶねぇ…」

 立ち上がって斬り倒された木を見た俺は安堵の溜息を漏らしたが、ベアリアが血相変えて近寄ってくる。

「お怪我は…!」

 ベアリアの色んな表情が見られるというのはいいものだな。

「へーきへーき、それよりどうよ?」

 俺は全身を適当に動かして無傷をアピールする。それを見たベアリアは心底安心したように笑った。

「見事な剛撃です」

「ありがと」


 どうやらクマノヴィッツは武技が使えるようになったらしい。そして心なしか…身体の中から何かが抜けた。体力とも気力とも違う…これがMP消費ということか。数値で見られないのが残念だが、雰囲気であとどれくらいあるかがわかる…そんな感じだ。


「MP切れの時って、身体になんか異変って起きたっけ?」

 念のため確認しておいた方がいい。

「いえ、単に武技も魔法も使えなくなるだけですが…」

 気力とMPは無関係ね。そりゃ安心した。ただ、やはり集中するから少し疲れるようだな。


「まぁ、これで俺も万全の状態で戦えるというものだ」

「ぼっちウルフ程度なら私が仕留めた方が…」

「それは…そうだけど。ウォーミングアップ的な?」

「なるほど」


 俺は綺麗な断面を見せた木に近づき、手放した旅人の剣を拾う。武技が使える戦士は数倍強いぞ。ふっふっふっ…


 パキン…


「は?」

「え?」

 なんか嫌な音がした。俺は恐る恐る、その音がした方…自分の右手に視線を落とす。そこには長さが半分になった旅人の剣があって…

「「折れた…」」


 何が?俺の心が?

 違う。旅人の剣が、だ。こいつ、もしかしなくても俺が使った武技の負荷に耐えられなかったのか。ゲームならまずありえない現象だが、これもまた現実的というわけか。


「や、やっぱり魔物はお願いしようかな」

 今の俺、めちゃくちゃ馬鹿なやつに見えてない?

 自分でもわかるほど情けない顔をした俺はベアリアに頭を下げる。すると、顔こそ見えなかったが、おかしそうに笑う声が聞こえてきた。

「お任せください」

 うはっ…情けないな。

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