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第43話

「ヒノイってさ、ギルみたいに冒険者になろうとは思わないの?」

「ああ、俺がいなくなったら誰がトットラ村を守るんだ?最寄りの冒険者ギルドですら、徒歩で2日もかかるっていうのによ」

「律儀ね。危ないと思ったら皆トットラ村を出ると思うわよ?」

「何、俺もここを気に入ってんのさ」


 ヒノイと並んで歩くと、少しだけ自分が小さく見える。もちろん身長差は歴然なのだけれど、器の違いを思い知らされてしまう。

「敵わないなぁ」

「何が?」

「なんでもなーい」

 森の中は妙に静かだった。朝露が葉を濡らす時間にはいつも小鳥の囀りが聞こえていたはずなのだが、他所から移動してきたドラドラトカゲの影響だろうか。

「ねぇ、ドラドラトカゲは強かった?」

「どうかな。木の上から一突きだったし、平野で戦ったら勝てないかも」

 ヒノイは謙虚さとは別に、冷静な評価のできる人物だ。私はそのトカゲを見たことなかったが、見つけたら一目散に逃げよう。

 しかし、私を守ると言ってついてきているのに、何ともまぁ…頼りにならない発言だ。


「えぇ?そんなので守るとか言うの?」

 私は苦笑しながらヒノイの横顔を見上げる。

「むっ…」

 ヒノイは私を尻目に見るや、すぐに視線を逸らした。


「負けなければいい」

「え?」

「負けなければ、何度だってイセス達の盾になれる」


 口調がほんの少し悔しそうだったが…ヒノイらしい。

 私は肘でヒノイの脇腹を軽く突いた。

「無茶して私の仕事増やさないでよ?私は薬師ってだけだから、薬でどうにかなる程度の怪我でしか対処できないんだから」

「ちゃんと手伝っているだろ?雫草採りに」

「下級回復薬は擦り傷とか切り傷を塞ぐ程度の効果しかないのよ?千切れた腕とか足が生えてくるわけじゃないし、血液が増えるわけでもないんだから」

 そう、父は医師の真似事のようなことができた。しかし、両親の専門はあくまで薬学であり、家にあった専門書は全て薬に関するものだけだった。

 一度、私は医学を学びに村を出たいと村長に話したことがあったが、老人が多いトットラ村における私の重要性は高く、村を離れることは許されなかった。


 多分、ヒノイはそんな彼らを守って死に、私は彼らの最期を看取り続けなければならないのだ。

 ギルはそんな私達を「鳥籠の中で満足に羽ばたけるのか」と問い、村を無断で飛び出して行った。

「イセスは心配性だな」

 ヒノイはそう言って苦笑する。やはり…大きい。


 私がヒノイの横顔を見上げているうちに、川のせせらぎが聴こえてきて、雫草の群生地に到着する。

「そういえば、雫草と蒼根の葉との違いがイマイチでな」

 ヒノイは木々の下にポツポツと生えている雫草を見ながら呟くので、私は近くに生えていた雫草を摘み、彼の目の前に出す。

「雫草は甘い匂いが特徴的よ。あと、蒼根はもっと乾燥した場所で育つ。葉の形はほとんど一緒だから…蒼根の葉は千切るとネバりのある汁が出てくるわ。乾燥帯で水分を有効活用しようと粘度を高めたのかも」

「おお、確かに甘い」

「ちなみに、雫草を乾燥させて火をつけると、過度なリラックス効果を生む上に、依存症を引き起こすから…一部では廃人草とも呼ばれているわ」

 私は背負っていた籠に雫草を放り込むと、ヒノイの顔が一瞬引きつるのが見えた。

「…マジで?」

「一般的に下級回復薬は治癒力の活性化と痛み止めの効果が期待されているけど、リラックス効果によって痛覚を鈍らせるだけよ。治癒力の活性化は本物だけどね」


 私の講義が終わる頃、やっと川に出る。そこで私とヒノイは立ち止まり、同時に口を開いた。

「「増水…」」

 川は普段の3割増しの水量を誇っていて、私が川辺に植えた雫草もいくつか川に飲まれてしまっていた。

「なんでわかったんだ?」

 ヒノイは不思議そうに私を見下ろした。とはいえ、私も驚いていた。

「なん…となく?」


 夢に出る彼は実在しているのか?そうでなければ、なぜ川の増水がわかったのだろう。


「すごいな」

「え、えへへ」

 私はヒノイの感心する視線から逃れるように、籠を木の下に下ろし、腕まくりをする。

「とりあえず、籠にいっぱい入れて貰える?」

「よしきた。川辺のは俺が行くから、イセスは絶対に川に近づくなよ」

「流されないでね?」

「おうさ!」

 そうして私達は作業を開始したのだが…


 どれだけの時間が経ったろうか。

「イセス!イセスー!」

 私が川から少し離れた森の中の野生の雫草を摘んでいる最中、川の方からヒノイの慌てた声が聞こえてきた。

「ヒノイ?まさか…!」

 流されたの!?

 私は左腕に抱えていた雫草の束を投げ捨て、木の根に転びそうになりながら川へ走った。

「ヒノイ!」

 川辺に出た私が見たのは…川の中央に立っていた、血みどろのヒノイだった。

「イセス!大変だ!」

「え?え?えぇ?」

 ヒノイは怪我をした様子もなく、至って健康そうだったが、彼は腕に抱えていたそれを私に見せて大声を上げた。

「人が流れてきた!」

〜〜龍の剣用語集〜〜

【蒼根】

パップツ草の根。毒々しい青色をした根っこだが、解毒剤に必要なものである。荒野などに生えているが、基本的にパップツ草があるところに毒攻撃をしてくる魔物はおらず、採集できる機会に採集しなければ、いざ毒状態になった時、解毒手段に困らされる。なお、パップツ草の知名度は10%未満。龍の剣検定1級の問題になる。


ーーーーーーーーーーーーーーー

・龍の剣用語集に載る新種魔物のアイデア募集中。

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