第41話
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評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
私は時折、変な夢を見る。その夢はいつも彼の決まった挨拶から始まっていた。
「やぁイセス。今日も世界は美しかったかい?」
彼はいつも私の頬を触って私を夢の中で目覚めさせると、優しく微笑む。だから私はこの世のものとは思えない綺麗な白髪を持つ彼に向かって決まった言葉を返す。
「世界はどうだったかは知らないけれど、いつも通りだったわ」
私が上体を起こせば、いつもの私と彼しかいない真っ白な世界が広がっていた。物心ついた頃からずっと10日に1回という具合に彼はここへ私を誘うのだ。子供の頃はこのどこまでも続く空間が…あまりにも自分を小さく見せるので怖かったが、それも続けば今更だ。
「いつも通りということは素晴らしいことだね」
しかし、私は未だ彼の名前を知らない。姿形も昔から変わっておらず、ついに私と背を並べていた。
「それで?今日は何?」
それでも彼は定期的に現れるので、うんざりしながらも彼の声に耳を傾ける。
「今日はそうだね…イセスに質問でもしようかな」
彼との会話に特別な意味はない。言うなれば、私の精神に住う異性の友人とでも言うのだろうか。たまに悩み事の相談をしてみるが、結論を出してくれるわけでもなく、基本的には雑談しかしない。もしかしたら、私の第二の人格だったりするのだろうか。
「君は神様をどこまで信じている?」
これは自問自答になるのか?
「何らかの形で存在はしているんじゃないかしら?」
「ほぅ?」
「でも…豊穣祈願しても、雨乞いをしても…ダメな時はダメだから、人間に都合のいい存在ではないのかなって感じ」
「神の力で願いがすぐに叶ったら、それはもう…幸せな世界が待っているだろうね」
彼は私の太腿を枕代わりにして横になると、真っ白な空を見上げて、その視線の先を腕を伸ばして指差した。私もそこを見上げるが何もなくて、不審げに彼を見下ろすも、満足そうに笑う彼と目が合う。
「君の太腿は程々に柔らかい。世界でも指折りの良質さを誇る膝枕だろう」
「えぇ…」
…いや、彼が第二の人格だとは認めたくないな。自問自答は結構だが…自画自賛はなんか嫌だ。
彼は私を見て、爽やかな笑みを見せる。悔しい話だが、それは私の初恋を奪った笑みだった。
「話を戻そう。まさにその通りで、神様が何でもしてくれるのなら、いよいよ人間は介護されるだけの存在になってしまう。それでは意味がない」
あまりに興味のない話だことで。
「意味がない?」
「そうさ。神様は人助けなんか絶対にしない。するのはシステムの維持だけだからね」
随分と確信めいた発言だが、我らが偉大なる神徒教の考え方とは異なる解釈だ。リットランでは少しずつ異端者狩りも増えていると聞くし、あまり聞きたくはないかな。
「看過しがたいシステムの崩壊に対してのみ、神様は手を貸す。そこに人間は付け入ろうとしているのさ。自分達が神様の僕であり、システムの維持に貢献する者である以上、自分達を見捨てないでくれとね」
彼はそう言うなり目を瞑る。
「女神タロニエには同情するよ」
やはり異端者。
「ねぇ、あなたって結局何者なの?」
この質問ももう何十回目だろうか。
「さてね」
その答えも何十回目だろうか。ああでも1回だけ違う答えを聞いた。確か…
『僕は彼女の目覚めを待つ者さ』
……今でもよくわからない。
私が溜息をつくと、彼は得意げに鼻を鳴らした。
「仕方ない」
「え?」
彼は目を開け、両手で私の頭を自分の顔の前に引き寄せる。わざわざ抵抗する必要性を感じなかったものの、私は少しばかり顔が火照ったことを感じ、つい反発しようとするが…どういうわけかできなかった。
「川に行く時はヒノイを連れて行くといい」
何が仕方なかったのかはわからないけれども、彼から何かを提案されるのは初めてだった。
「どうしてヒノイを?」
ヒノイは私が暮らす村にいる青年だ。
「だって君は彼のことが好きなのだろう?」
私は咄嗟に顔を上げた。上げることができたことにも驚いたが、それ以前に…
「べべべ…別に?…好きとかそんなんじゃ…」
彼はどこまで何を知っている?
「何、明日は川も雨で増水していることだろうからね。1人じゃ危なかろう?」
彼は最初から最後まで笑っていたが、そこに胡散臭さがなく、いよいよ本当に謎だ。
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