第40話
ブクマや評価、感想等々大歓迎です。
評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
豪雨龍ラークレゲナ、出現地点には必ず雨が降り、鱗が濡れている限り強い力を発揮すると言われている。あの世界では半年以上前に新大陸で発見されたドラゴンだったはず。
なぜそんなものがこの世界にいるのか!
あれは上級職レベル100の冒険者が8人以上集まらないと勝つことができない天災だ。今のクマノヴィッツ様では…
「クマノヴィッツ様!」
必死になってクマノヴィッツ様の元へ駆けつけようとした。私が時間稼ぎをすれば、クマノヴィッツ様を逃すことができるかもしれない。そう思って走った。
なのに、
「避けてください!」
ダメだ。貴方がいなくなるのはもう耐えられない。私を置いて行かないで。
「いやあああああああああああああ!」
私は突進し続けるラークレゲナを無意識に跳躍することで飛び越えるも…そこにはもう何もなかった。
あるのは踏みつけられた馬車や人だったものの残骸だけで、ラークレゲナの通ったあとは悲惨そのものだった。
「あ…ああっ!」
遠ざかっていく破壊音に私は地面に膝をつく。そして這って柵が壊され尽くされた崖に近づき、真っ暗闇の下を覗く。
「クマノヴィッツ様!クマノヴィッツ様ぁ!」
フェアリーライトの光源を可能な限り下に落としても、どこまでも暗闇が続いていて、途中で何かが引っかかっていることもなかった。
「どうして…」
どうして私は崖を飛び降りられないのか。クマノヴィッツ様の後を追うためならば、今すぐにでも飛び降りるべきだというのに。本能的にわかっているのか、ここを飛び降りれば…死んでしまうことを。つまりもう貴方は…
私達従者は自殺を許されていない。主人に仕えることを至上の喜びとしている私達は、主人の命令なしで自決はできないのだ。
「私はもう従者じゃないはずです!どうして!どうして踏み出せないのですか!」
崖から身を乗り出しても、脚が、手が、全身が飛び降りることを拒んでいる。死ぬことは怖くないのに。怖いのは…取り残されることだけだというのに。
「ベアリアさん!」
誰かが私を照らした。声と共に現れたのはサクだった。彼は身を乗り出した私の身体を崖から引き戻す。
「一体何があったのですか!クマノヴィッツさんは?」
ああ、結局こいつがいても…クマノヴィッツ様の安全は確保できなかったのか。私達よりランクが上の冒険者だとクマノヴィッツ様は信頼していたが…
いや、私がビッグコッコの違和感を進言しなければ、そもそも山道を通ることはなかった。
クマノヴィッツ様にイレギュラーを持ち込んだのは私なのか。
「ベアリアさん!……何の音?近づいてくる!」
私のせいだというのなら…
「サクさん、あなたは先頭集団に合流してください」
「え?」
近くに踏み潰された私兵が持っていたであろう剣が落ちていたので、それを拾い、戻ってくる足音の方に歩き出す。
「相手は豪雨龍ラークレゲナ。後方は全滅でしょう」
「初めて聞く魔物ですが…」
「やはりあなたもその程度ですか」
「え?」
「早く前方に合流してください。私が時間稼ぎを引き受けましょう」
自殺が許されないのであれば。
「でも…こんなことができてしまう相手を1人で」
私のせいだというのであれば。
「ここで少しでも気が引ければ、前方は見逃してもらえるかもしれません。その時はあなたが護衛を最後まで務めあげるべきです。あの方を失った私など、これくらいでしかお役に立てませんから」
早く来いラークレゲナ。
「…………ベアリアさん、すみません!」
謝るな。恨みたくなる。
「お気になさらず」
遠ざかっていく小さな足音と近づいてくる大きな足音。私は後者の方を見て剣を構える。
「貴様が私を殺しなさい…そうすれば私は…」
〜〜龍の剣用語集〜〜
【豪雨龍ラークレゲナ】
梅雨イベント「雨天の舞踏島」に登場する期間限定のボスモンスター。倒すには相当な準備が必要であり、廃人ですら周回することは叶わず、上級者でも一戦一戦に非常に緊張感を伴う鬼畜仕様であった。なお、エンジョイ勢には挑戦権すら与えられず、期間限定ということもあり、プレイヤー知名度はかなり低い。
当時の担当スタッフが五月病を患ったことにより誕生した鬱々しいボスという都市伝説があったが…あまりの知名度の低さにもはや都市伝説とは呼べない。
(提供…ミズッキー様)
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