第39話
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評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
それは不意に訪れた。というのも、俺達が乗っていた馬車の御者が大声を上げたことから始まる。
「うわぁ!」
幌を叩く雨音のせいで、聞こえてくるのは御者の驚く声だけだった。
「どうした?」
荷台の先頭寄りに乗っていた私兵達がゾロゾロと御者の背中越しに様子を伺おうと集まる。すると、馬車は停車し、前方に集まった連中がざわめき始めた。
「おい、どうしたんだ?」
俺の隣にいたおっちゃんも不審に思って御者達の方に向かう。
どうせ馬車が動かなくなったとかだろう。
そう思った俺は馬車の後ろから飛び降りると、後続の御者と目があった。
「今度は何事で?」
「確認してきます」
仕方なしに暗がりをフェアリーライトで照らして前に向かう。しかし、途中からというか…フェアリーライトの明かりによって、御者達の横に並ぶ頃には事態の全容がおおよそ把握できてしまった。
「は?」
俺達の前には確かに列をなす馬車が先行していた…はずだ。それがどういうわけだ。
「どうなってる…?」
その馬車が消えていたのだ。一応といった具合に馬車の残骸であろう木片が多数散らばり、崖側の落下防止用の柵も内側から破壊されていた。
消えた馬車の前を行く馬車はこの事態に気付いていないようで、当然のように進んでいた。
土砂崩れならどれだけ良かったか。
「こんな悪天候に襲撃だと?」
考えたくなかったが…馬ごと馬車が消える事態になっている以上、ここで冷静さを失うわけにはいかない。
「笛を吹け!警戒しろ!」
私兵の皆も慌ただしく馬車を降りてくる。
「灯りを照らせ!視界確保!」
俺もフェアリーライトの出力を上げると、すぐにおっちゃんが俺の元まで走ってきた。
「旦那!敵は?」
「わかりません。御者さんは何と?」
おっちゃんを連れて崖外を警戒しながら、壊れた柵から身を乗り出すも、下は真っ暗で何がどうなったのかはわからなかった。
「馬車が急に崖外に急発進して消えていったらしい」
馬が暴走して柵を突き破って落ちたとかなら説明がつきそうだが…
「あと、デカい影を見たって話だ」
人の襲撃ならまずありえない。右は崖だし、左は壁だ。列の中間に位置する馬車を襲撃するにしても…馬車を落とす意味がわからない。
となると、デカい影は魔物。上から馬を目掛けて飛来し、馬を掴んで馬車ごと飛び去ったという方がまともそうではある。しかし空を飛んで、馬を食う魔物なんて…十中八九、俺では対処できない類の魔物だ。
「馬1頭で満足してくれましたかね?」
運が悪ければ、落ちていたのは俺達かもしれない。そう考えると…とんでもないことが起きたのだ。しかし動揺を表に出してはいけない気がする。
「だといいけどよ」
雨で濡れているからわからんが、きっとこの場にいる誰もが冷や汗をかいているに違いない。
「進行を急がせましょう」
「だな」
そう言って俺達は崖に背を向けた。
…こういう時、妙な直感が働くのはなぜだろうか。
「なんか来る!」
「おぅ!?」
俺は咄嗟におっちゃんの頭を抱えて泥の上に飛び伏せた。何の根拠もない…もしかすると、俺ではなく、クマノヴィッツの危機感か、タロニッツの介入か…
すると、俺達の背中の上を強風が突き抜けていき、とんでもなく大きな何かが消えた馬車の跡地に着地した。
「おい、マジかよ」
先に顔だけ上げていたおっちゃんの声に、何かを察しながら俺も顔を上げると…そこにそれはいた。
蜥蜴にしては圧倒的にデカく、前脚には空飛ぶぞといったような膜が張っていた。人間を容易く丸呑みにできてしまいそうな口からは舌がチロチロと見え隠れしていた。
「見たことないドラゴンだ…」
そのドラゴンは着地時、わざわざ俺達の方に身体の向きを反転させていて、目が合った。
「「ヤバい!」」
俺とおっちゃんは慌てて立ち上がり、左右に分かれる。幸いなことにドラゴンは左右に展開していた私兵達を一瞥するに留まっていた。
多分だけど…勝てない相手な気がする。
そもそも俺達はドラゴンを挟撃できる形ではあるが、素人の10人そこらでどうにかなる相手ではない。
「う…」
それに、だ。
「「うわぁあああああ!」」
私兵の1人が後退りをしたが最後、私兵達はドラゴンに背を向けて、逃げ出した。当然のことながら、俺もその流れに乗る。おっちゃん達は列の前方へ、俺達は列の後方へ走り出す。御者も馬車を捨てて逃げ出した。
しかし、ドラゴンは決して優しくはなかった。
ドドドドと地面が揺れ、あまりに大きなプレッシャーが俺の背中を追いかけてくる。最悪なことに、二分の一を引いてしまったようだ。
「うわぁあああああああああ!」
俺の右隣では若い私兵が大声を上げて走っていたが…こいつのせいで注意が向けられたのではあるまいか。
などと考えていると、馬の悲鳴や木片なんかが背中から飛び越えていく。俺は走りながら、恐る恐る左肩越しに後ろに振り向いてみた。
「クマノヴィッツ様!」
このタイミングでベアリアの声が聞こえた。
「ベアリア…!」
後ろを見ると、ドラゴンの頭がなく、首が伸びていた。
どこに?…俺の右隣に。
「ぎゃぁああああっ…!」
自分の首を180度回し、右を見る。
「避けてください!」
途中、正面にベアリアが見えた気がしたが…
また…目があった。
「ベ…」
ドラゴンは俺の方に頭頂部を向けて、うるさかった私兵を喰らうと、そのまま首を俺の方に振り上げる。
「アッ!?」
視界が暗転する。息ができない。身体が動かない。
「いやあああぁぁぁ…!」
ベアリアの叫びが一瞬にして遠のいていく。身体が物凄い速度で落下していく。意識が…
…これは………死ん………
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