第38話
ブクマや評価、感想等々大歓迎です。
評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
私はなんということをやらかしてしまったのか。
ーーで、では!…私がクマノヴィッツ様を好きになってもよろしいのですね?ーー
「ああ…やってしまいました…」
大雨の中、過去を振り返るように最後尾で後方警戒にあたる私はつい大きな溜息を漏らしてしまう。幌馬車の屋根には雨粒の落ちる音が響いていて、私は泥に残される轍を見つめる。
以前からクマノヴィッツ様とは妙な距離感があった。しかし、この世界に来てからというもの…ずっと行動を共にし、その距離感も幾分近づいたように思っていた。だからこそ欲が出たのだ。サクやボルダーのような要因が私を焦らせた。いや、もっと言うなれば、クマノヴィッツ様が私の自由意志を尊重するようになったことが起因している。命令されることに慣れてしまった私にとって、それは不安でしかないのだ。
私は貴方のために生み出された存在であり、それこそが私の存在意義だというのに…
ーー従者呼びの笛が壊れて、ベアリアを呼び出すことも返すこともできなくなった以上、お前さんを従者という地位に縛るのもどうかと思うわけだ。だからボルダーさんについて行っても、俺が止めることではないーー
信頼してくれているということは理解している。貴方はきっと私が付き従うことを知っている。
それでも私は貴方との繋がりの1つを失った。その計り知れない不安を貴方は知っているのですか?
だから、私は貴方との新しい繋がりを、より強固な繋がりを求めてしまったのです。
「その結果、クマノヴィッツ様を困らせてしまった」
男手がいるからと、私兵の皆さんに任せておけばいいのに、これでは私から距離を置いているようではありませんか。
一方で、わかったこともいくつかある。あの世界において、私や他の従者達を抑圧していたものの正体はおそらく「従者呼びの笛」だ。この世界であれが壊れた時から私はあの世界でいう従者ではなくなっていたのだろう。そうでなければ、今の今まで私が感情を揺さぶられることもなかったはずだ。
そして、クマノヴィッツ様もまた人間味を増しているということは、この世界に来てから、何かしら影響が出ているのではないだろうか。
以前は無数の雑魚を蹴散らしても「経験値稼ぎ」と呟くばかりで死体を特別意識しているようには見えなかったが…ビックコッコを倒した時、クマノヴィッツ様は顔を真っ青にしていた。カリカリオ村でもオーク討伐に否定的で、些細な違和感にも敏感で、危険を可能な限り避けようとしていた。それは以前のクマノヴィッツ様に見られなかった変化だ。
「今の方が好きかな」
これらの影響はこの世界に来たことが原因だとすれば、元の世界に帰り、再びクマノヴィッツ様が従者呼びの笛を手にした瞬間から…この世界の私は消えてしまうのではないか。もし、全てはあるべき場所に帰るというのなら、この世界にいる時だけはせめて…
「ん?」
……それに気づいたのはたまたまだった。まさに出来すぎた偶然であった。
私は疑うより先に馬車を飛び降り、咄嗟に雨降る空を見上げる。
大雨の中、耳には雨粒が幌を叩く音や車輪が泥を踏みつける音などが聞こえていたが、一瞬だけ…何か覚えのない音が聞こえたような気がしたのだ。
「気のせい?いや…」
いよいよ暗くなっていて、本格的な灯りを必要とし始めていたが、常時魔法を使うのは非効率であり、大雨に松明は相性が悪い。よって、足元を照らし、少し先が見える程度にランタンを馬車の前方に吊るしていた。しかしそれでは上は暗いままだ。
「フェアリーライト」
クマノヴィッツ様なら最後まで疑うだろう。
私は指先にできた小さな光源を馬車列の上に飛ばす。しかし明るさがあまりないため、仕方なく光量を増やすが、やはり見通しが悪い。
「とりあえず上空に魔物なし。鳥や蝙蝠の類ではなかった」
確かに上の方から異音が聞こえたのだが、やはり気のせいだったか。少なくとも馬車に影響はなさそうだ。
そう思って光量を減らし、光源を消そうとした瞬間だった。
何かが物凄い勢いで光源の奥を落ちていった。私はそれが何なのかを辛うじて僅かな光源で確認することができた。
これはマズい。
「クマノヴィッツ様!」
私は背負っていた骨弓に手をかけ、慌てて走り出す。そして同時に、馬車列を構成する誰もに聞こえてほしいと願いながら、強くなる一方の雨の中叫んだ。
「敵襲です!あれは…いけない!」
・龍の剣用語集に載る新種魔物のアイデア募集中。