第37話
ブクマや評価、感想等々大歓迎です。
評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
ベアリアと距離を置こうと思っても、結局1人じゃ何もできないではないか。ということで、素知らぬふりを貫くことにした。悲しきことか、嘘偽りは得意らしいから。
そんなわけで、着実にリットランへ近づこうとしていたのだが…
「「「せーーーーのっ!」」」
山道の中間地点にて、突然の大雨に遭遇。土砂崩れなどを心配して、残り半分の道のりを急がせたが、地面がぬかるみ、馬車の車輪を止めさせた。
本来なら、夜には山道を抜け、そこで野営することになっていたのだが…すでに夕暮れが近づき始めていて、周囲が暗くなり始めた。
「ぬぅっ!」
「ふんっ!」
幸いなことといえば、馬も人も多く…立ち往生だけは免れていた。1台がぬかるみにハマれば、他の馬車を牽いていた馬を呼び、馬2頭で引っ張ると同時に、力ある男衆が後ろから押すことで、割とすんなりと進めた。そしてぬかるんでいた場所には板を敷き、後続の馬車がハマらないように対策をする。
「出るぞ!」
パワー担当の俺も当然のように馬車の後ろで押し上げていた。すると、ゆっくりと車体は前進し…
「あっ…!」
急にぬかるみを飛び出すので、俺は勢い余って泥の中に両手両膝をつく。
「最悪だ…」
「大丈夫か旦那」
「ええ、どうにか」
一緒に押していた私兵のおっちゃんに助け起こされ、俺は思わず天を仰ぐ。
「なーんで…雨なんか」
間違いなく快晴だったではないか。
そう思っていると、おっちゃんが俺の肩を叩いてきた。
「山の天気は変わりやすい。ほれ」
おっちゃんが指差したのは右側の崖外。もう森を見るためには下を覗き見なければならないほど高くまで登っていた。
「雨が降って、日が暮れて…いよいよ視界が悪くなるってもんだ。あと2-3時間の辛抱だが、旦那も崖には近づくなよ」
「わかってますとも」
ゲームではやはり五感全てを使うことはないからな。冒険者など、なるものではないな。
俺達は雨を凌ぐため、後続の馬車に乗り込み、ゆっくりと進む真っ暗な外を睨みつける。ちなみにサクは先頭の警戒を、ベアリアは最後尾の警戒をしている。
「雨、か」
そういえば、天候によって魔物とか武技とかに影響があったよな。詳しくは知らないけど。雰囲気でプレイしてたし、レベル的に進捗的にそこまでシステムを理解しなくてもまだよかったもんなぁ。
「いやぁ、雨は勘弁ですな旦那」
「ん?ええ、おかげさまで泥だらけですよ」
「ほい、汚ねぇ手拭いですけど」
「ありがと」
俺が乗り込んだ馬車には汗臭い私兵達で埋め尽くされていた。俺はその臭いから逃げるように渡された手拭いで顔についた泥を落とすが…この手拭いもまた、不衛生的だった。そこで俺は手拭いを大雨の下に晒し、軽く洗い始める。雨水が綺麗かと言われれば疑問が残るが、鼻がひん曲がりそうになる悪臭を放ち、泥まみれなそれを放置する方が問題だろう。
「しかしまぁ、山に来て正解だな」
俺が後ろに続く馬車を牽く馬に見られながら、手拭いを揉み洗いしていると、妙なことを私兵の誰かが口にする。絶賛大雨に困っているところだというのに、なぜ山が正解なのか。
「先輩、どういうことですか?」
幸いにも若い私兵が質問した。あまり自分の無知を晒す真似はしたくないから、大人しく聞き耳を立てるとしよう。
「あ?ああ、お前さんはこの辺の地理に疎いのか」
「ちょうどこの辺りだな。山に沿って川が流れてんだ。詳しくは俺も知らんが、オキュロ山のどっかにある洞窟から流れてるらしい」
「川の増水が危険だと?」
うんうん、雨の日に川は近づきたくないよね。
「それもあるが…雨の日は水生魔物がな」
「水生魔物?」
「だな。湿気が多い日や雨の日はアワーノガニとかフクロフロッグみたいな普段は川や土の中にいる魔物が出てきやすい。しかも雨が降ってると、地上での動きが速くなったり…まぁ色々面倒なのさ」
「こっちは雨で体力削られるわ、足場も悪いわ、視界不良だわって都合が悪い。それに比べて、もう標高400m500m地点だろうこの辺にゃ、雨の日にわざわざ出てくる魔物もいないってわけだ」
「なるほど」
…なるほど。やっぱり雨はよくないな。
「ま、俺達には高名なワイズマンに加え、博識麗人のベアリアさん、頼れる我らが旦那もいるんだ」
「え?」
手拭いを絞ったところで、不意に呼ばれた気がして振り返ると、私兵の皆さんが俺を見て笑っていた。
「旦那!頼りにしてますぜ!」
ドンと力強く肩を叩かれ、俺は思わず苦笑する。
「あー…ははっ」
俺も頼りにされているのは正直不本意だが…これは護衛の仕事を引き受けている以上仕方のないことだ。報酬分の仕事はしなくてはなるまいよ。
「Cランク冒険者並には働きますよ。大物はワイズマンさんの担当ですからね」
もっと楽ができるように働き方を考えねば。ここ最近…冒険者に嫌気がね。人探しだけなら、どっかでフロントスタッフやった方が安全だし、情報も手に入ろう。
「おーい、前でまた馬車が!」
大雨の中で声が響いてきて、俺達はすぐに馬車を降りる。
「旦那、行きますぜ」
「はいよ」
本当、俺には合わんな。この仕事。
〜〜龍の剣用語集〜〜
【アワーノガニ】
川などに生息するカニっぽい魔物。人間の膝下まで背丈があり、強靭なハサミは鉄製の盾をも潰し切る。生息地毎にそれぞれの保護色を獲得し、ステルス性能は高めだが、地上を動くときは常に口から泡を吹くため、その音がそこそこに聞こえるようになっている。
夜中にアワーノガニと遭遇すると、見えない敵、近づく異音がホラーだと話題になった。
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