第33話
ブクマや評価、感想等々大歓迎です。
評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
気づいたら8万文字に近づいていて、これはいよいよ何かの賞に出してみるのも…ま、無理ですな。
素材の剥ぎ取りをガウーリアス商会に一任した俺は1人、馬車の中で着替えていた。流石にどっぷり返り血のついた疾風のコートを着続けるわけにもいかず、コートとインナーを脱ぎ、ラスマの街の古着屋で買ったボロいシャツを着た。すると…明らかに自分の動きが遅くなったのを感じる。もちろん、側から見れば何も違和感はないだろうが…
「やはり…疾風のコートにはステータスアップ効果もちゃんと付いていたのか」
こりゃ装備品も重要になってくるな。
などと考察していると、不意に馬車の戸が叩かれる。
「クマノヴィッツ様、よろしいですか?」
「ちょい待ち。今出る」
俺はリュックの中から新しいオークのハンドアックスを1本取り出して腰に提げ、馬車の戸をゆっくり開ける。
「お疲れ様です。クマノヴィッツ様」
ベアリアは涼しい顔をして立っていたが、俺の顔を見るなり、途端に焦りの色を見せる。
「クマノヴィッツ様、顔色が優れませんが…」
「何、問題ない」
慌てて両頬を強めに叩いて顔色を誤魔化す。
「それで?何かあったのか?」
「え…あの…」
俺がベアリアの正面に降り立つと、しばらく顔を見つめられる。どうやら本気で心配してくれているようだ。何ともまぁ…よくできた従者ですことで。
とはいえ、俺がヘラヘラ笑ってみれば、ベアリアは小さな溜息をついて、すぐに微笑み返してきた。
「違和感があったので、報告をと思いまして」
「俺に?ボルダーさん達ではなく?」
「私はクマノヴィッツ様の従者ですから」
「よし聞こう。歩きながらでいいか?」
ベアリアが頷くのを確認した後、俺はビッグコッコの剥ぎ取り現場に向かって歩き出す。すると、後ろからついてくるベアリアは妙なことを口にした。
「今回のビッグコッコは森型でした」
「そうか…」
森型…?っていうか、それって違和感なのか?
「一応その…なんだ?…どう違和感を感じた?ビッグコッコについては詳しくないんだ。説明頼む」
ゲーム内においては一部魔物に生息地別の特徴が見られた。例えばオーク。森に住むオークと海辺に住むオークとでは、使う武器が異なったり、属性耐性が異なったり…環境による差異があった。そういうのもあって、「森型」「海型」「山型」と同じ魔物でも区別されることがある。
しかし、記憶の中ではビッグコッコはそう言った区別がなかったはずだが…
「ビッグコッコは草原か森に生息しています」
「おう」
「ですが…森型のビッグコッコが草原に出てくることは極めて稀です。何より現在地は広大な草原地帯。北には森がありますが、まだ距離にして3kmは離れているようです。討伐されたビッグコッコ13体がいずれも森型であったことを考えると…不自然で」
「確かにそれが森型であれば…」
「確かです。脚に黄色い筋が確認され、地肌も草原型に比べて白色でしたから。いずれも森型特有の特徴です」
そこまで聞くと、俺は思わず足を止めて振り向いてしまう。
「…ビッグコッコってそういう違いがあるの?」
めちゃくちゃ自信ありげな返答だったし、おそらく間違いない。もしかして…オスとメスで微妙にデザインが違う魔物とかもいたけど、住む環境によってもデザインが変えられていたということか。誰も気づかないところで運営も手の込んだことをしているのだな。
「ベアリアって博識なんだな」
普通に感心して自然と言葉が出てくる。それをベアリアは当然と言わんばかりに笑顔を見せた。
「従者ですから」
「そういうものか?」
「そういうものです」
以前にも似たようなやり取りをしたことがあったな。外見の差異については向こうに帰ったらSNSで小ネタとして呟いてみよう。多分、誰も気づいちゃいない小ネタだろうよ。
さて、その博識なベアリアに続きを聞くとしよう。
「では、なぜ来るはずもない森型のビッグコッコが草原に姿を見せたのか、ベアリアが思うに原因はなんだ?」
少しずつ興味が湧いてきた。というか俺も違和感を共有し始めてきた。
「まず、こちらの世界ではビッグコッコに区別など存在しないという可能性があります」
それはそうだ。タロニッツのいう「仕様」の影響も否定できない。しかし…魔物の外見に関してはゲームと同じであると考えるのが妥当。そこに違いを設ける必要はないと考える。となると…
「森から出る必要が生じた。私はこちらではないかと。ただ、根本の原因は情報不足のため…」
俺もそう思う。
「普通に考えりゃ…食うもんがないか、住む場所が森林伐採等でなくなったか…」
人里に猿やら猪、鹿が降りてくるようなものだろう。確かに違和感だが…なんだ。言うほどの問題でもないんじゃないか?
俺が楽観的に呆れて笑いかけるが、なぜかベアリアは真剣な顔で俺の言葉に続く。
「あるいは何かから逃げてきたか、ですね」
……は?
「ベアリアよ。ビッグコッコは食物連鎖の上位勢だぞ?何から逃げるんだ?」
圧倒的強者であるサクを無謀にも囲んで攻撃し、無策に俺に突っ込んできたあのトリ頭達が一体何から逃げるというんだ。
「ビッグコッコを捕食するほど強大な魔物なら」
「待て待て待て」
あ、これはイヤだな。俺は考えたくないぞ。
「ベアリア、念のため…ボルダーさん達に確認してくれないか?」
すぐにベアリアに背を向けて歩き出す。しかし、5歩進んだところでつい立ち止まってしまった。
「なぁベアリア…」
「はい」
ベアリアは俺の不安を煽りたいのか…?
「俺達が向かっている方角って…北じゃね?」
「はい」
どうすれば、このフラグを回避できるかな。
「警戒して損はないな。最悪、ワイズマンもいるし」
「私もいます!」
「ん、そうだな。頼りにしてる」
また歩き出した俺の後ろからは頼もしい声が聞こえたが、俺の不安は大きくなり始めるのだった。
〜〜龍の剣用語集〜〜
【疾風のコート】
素早さが雀の涙ほど上がるコート。武具屋などでは中堅クラスのプレイヤーがやっと購入できる価格帯に値段が設定されていた。しかし防御力が極めて低いため、よっぽどの物好きでなければ買おうとは思わない代物である。
尤も、強い装備になればなるほど厨二病感が増し増しになる中で、疾風のコートはほどほどにお洒落できると、一部ではそれなりに需要がある。




