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第30話

ブクマや評価、感想等々大歓迎です。

評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。

ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…


更新が遅れてる。せめて週一のペースで…!

「……そうだ。便所に行こう」

 眠れない俺をよそに、ベアリアは静かな寝息をたてている。電気のない世界の夜は真っ暗で、その美しいであろう寝顔を拝むことはできないのが悔やまれるところではある。

 俺はベッドから降りると、足音を可能な限り忍ばせて部屋を出る。2人部屋を借りた時に鍵も2人分くれたということで、その鍵でゆっくりと施錠をした。


「フェアリーライト」

 そう言って右手の人差し指を立てると、その指先に小さな光の球が出現する。カリカリオ村で出会ったシンシアから教えてもらった生活魔法「フェアリーライト」である。ゲームでは戦闘にしか魔法を使ったことがなく、


『クマノヴィッツさん、何をしてるんですか?』

『え?火起こしにファイアボールを…』

『火起こしに魔力使いすぎですよ。生活魔法使えないんですか?』


 …とMP効率の悪さを指摘されたのだ。魔力を持っているなら子供でも使える簡単な魔法だそうで、カリカリオ村滞在中に生活魔法「フェアリーファイア」と「フェアリーライト」を教わった。要は火種と豆電球が使えるようになったのだ。


「ホラー耐性持っててよかったぁ…」


 俺は真っ暗な廊下を照らして歩き出す。しばらくすると、階段にたどり着き、俺は足元を照らしながらゆっくりと階段を降りる。やはり真っ暗なせいか、誰もかれもが活動せずに寝静まっており、どこからともなくネズミが走り抜ける音だけが聞こえてくる。


「ネズミ…ブラッドマウスとか手強かったよなぁ」

 そういえば、動物と魔物の差って何なのだろうか。

「やっぱり魔力持ちのことを言うのかね。でも、だったら多くの人間が魔物ということになる。ゲーム的には無限に湧いてくる印象があるけど…」

 無限に湧く魔物を相手していたら…いつかはジリ貧で人間が滅びるぞ。こっちはリスポーンできないんだから…いや、できるのか?


 借りていた部屋は2階にあり、1階の共同で使用する便所に辿り着くと、悪臭に耐えながら用を済ませる。ゲームの世界のご都合主義なのか、形態としては水洗式だったが…果たして下水道諸々の事情がどうなっているか…まぁどうでもいいのかもしれない。ただ、魔法技術が用いられていたら夢がありそうだ。これもタロニッツに聞いてみよう。


 便所から出ると、俺は部屋に戻ろうと階段のあるところまで歩いていくが、ふと足を止める。


「ちょっと夜遊びしたい年頃だよなぁ」


 俺は小中高生の時、そこそこ真面目に過ごしていた。午後6時には家に帰って、家族全員と夕食を食べ、その後はゲームと勉強。ゲームも午後9時以降はしたことがなかった。スマホですら自室への持ち込みが固く禁止されていたし。

 だからなのか、夜の外出というものに変な幻想を抱いてやまない。

「朝食までに戻れば問題ナッシング…へへへ」

 俺はその場で踵を返して宿屋を出た。


 ーーーーーー

「おぉぉ…」

 電気のない世界は暗いと思っていたし、現にくらいわけだが、若獅子亭がある道にはそれなりに人がいた。その誰もが俺と同じように指先から光を発していたり、ランタンのようなものを持っていたりと、小さな光源がその人に合わせて動いていた。

「ちょっと散歩するか」

 とはいえ、土地勘がないこともあって遠出はできない。ひとまず冒険者ギルドの会館まで歩いて行くとしよう。

 俺は宿屋を背にまっすぐ進んで、向かいにあるギルドの訓練所に足を踏み入れると、あれだけ大勢の冒険者がいたそこには誰もいなくなっていた。

「夜はどこも人がいないのか?」

 などと思っていると、会館だろうところからは僅かに光が見て取れた。蝋燭の光か、それに似た何かだろうか。人々の様々な依頼を受け付ける彼らの仕事は夜まで続いているらしい。


「想像以上に暗いな…」


 日本の夜の繁華街に行ったことはないが、テレビなどでは眩しい街として映し出されていて、自然とそういう期待を持っていた。それだけにちょっと期待外れな展開ではある。

「帰るか」

 仕方なしと訓練所の真ん中で引き返そうかと考えた。


 しかし、不意に右耳が俺以外の足音を拾った。


 反射的にそちらを向き、指先の光で照らしてみると…

「あれ?クマノヴィッツさんですか?」

 そこには俺と同じようにこちらを照らしてくる美女…ソランさんの姿があった。

「これは何かの運命か…」

「え?」

 いかん、口から漏れたか。

「いや失礼。こんばんは。仕事帰りですか?」

 俺が立ち止まって当たり障りのない笑顔を見せると、ソランさんは苦笑を浮かべた。

「ギルド職員なんてなるもんじゃないですね」

 ……そういえば、ソランさんはどこから現れたのだろう。誰もいない真っ暗な訓練所で今みたいにお互いに光が見えていたら、すぐに気付くはずだが…光で照らさずに訓練所にいたということか。


「えーっと…お疲れ様です」

「ふふ、ありがとうございます。クマノヴィッツさんはどちらへ?」

「あっと…散歩に?」

「私に聞かれましても…」

 仕事帰りなら、立ち話に付き合わせるのも迷惑かな。俺なら早く帰って寝たいところだろう。

「それなら、どこか夜のオススメスポットをご存知ありませんか?何分、地元では夜も賑わっていて、静かな夜は少し落ち着かないんです」

 もちろん大嘘である。ただソランさんと別れるのは味気ないというか、個人的にもったいないと思ったので、適当な質問を投げてみる。返答次第で俺も帰るか、散歩を続けるか決めるとしよう。

 そんなことを思っていると、ソランさんはしばらく考え込み…小さく笑った。


「誘ってくれてます?」


 その想定外な問いに、頭の中が一瞬真っ白になる。

「え?来てくれます?」

 ほぼ反射的に口を開いたが…クマノヴィッツになってからというもの、ベアリアにシンシア、そしてソランさんと、美女と縁がある。もしかすると、このクマノヴィッツのポテンシャルを最大限に活かせればハーレムだって…


 しかしソランさんは俺に背を向けて数歩進むと、背中越しにこちらを見てウインクしてくる。

「ダメですよ。私の愛想を真に受けちゃ。西口周辺なら夜も賑わってますよ。ではでは」

 そう言ってソランさんは暗闇を進んでいってしまう。


 …なんか、こう…うん。

「ズリィよなぁ…上げて落とすんだもん」

 俺はその場でしゃがみ込み、深々と溜息をついて、遠ざかっていく淡い光を見送った。


 ちなみに西口は道の至る所にかがり火があって明るく、ちょっとした祭りみたく出店も並んでいて…そこで食べた肉の串焼きの味は少しだけ塩っぱかった。

ーー龍の剣用語集ーー

【ファイアボール】

どの職業でも覚えられる火属性の魔法。威力は極めて弱く、あまりの弱さに存在自体を忘れられがち。しかし、火属性でしかダメージを与えられない魔物もいて、運営もファイアボールの活躍の場を提供している。

ちなみに名称を「ファイアボール」とするか「ファイアアロー」とするかで半年も争ったという。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い。一気読み中。 修学旅行で夜中に抜け出して、夜の街をただブラブラする。みたいな感じを少し思い出した。
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